「衆議院議員照屋寛徳君提出イラク帰還自衛隊員の自殺に関する質問に対する答弁書」

一について

 我が国は、平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して・・・(中略)

三及び四について

 テロ対策特措法又はイラク特措法に基づく派遣と隊員の死亡との関係については、一概には申し上げられないが、平成十九年十月末現在で、テロ対策特措法又はイラク特措法に基づき派遣された隊員のうち在職中に死亡した隊員は、陸上自衛隊が十四人、海上自衛隊が二十人、航空自衛隊が一人であり、そのうち、死因が自殺の者は陸上自衛隊が七人、海上自衛隊が八人、航空自衛隊が一人、病死の者は陸上自衛隊が一人、海上自衛隊が六人、航空自衛隊が零人、死因が事故又は不明の者は陸上自衛隊が六人、海上自衛隊が六人、航空自衛隊が零人である。
 また、防衛省として、お尋ねの「退職した後に、精神疾患になった者や、自殺した隊員の数」については、把握していない。
 (以下省略)


「死亡者が35人って、しかも死亡原因不明って、戦死かもしれないじゃないですか。

 福田首相の時にこんな国会答弁があったなんて・・・。」

「俺も知らなかった。

 自衛隊が現地派遣されたのが2003年で、この答弁書が閣議決定されたのが2007年。

 4年間ものあいだ公にされなかったってことだ。」

「なぜ、もっと大騒ぎしないんですか。」

「政治屋は自分の首を絞めるから騒がんし、マスコミだってその政治屋の顔色をうかがってるんだろう。」

「情けない話だ・・・。」


今やマスコミの流す情報の信頼性が薄れているのは周知の事実である。

情報を受ける視聴者の質が落ちたか?情報を提供する側が視聴者を甞めているのか?それとも両方か?

岩崎の発した『情けない』という表現が呪詛の様に響く。

しかし、答弁書はれっきとした公文書であり、マスコミの演出も視聴者の色眼鏡も存在しない。

自衛隊のイラク派遣に関する任務が完全に終了したのが2009年。

2007年の段階よりさらに多くの自衛官が命を落としていることは容易に想像できる。

過去2年に間に複数の自衛官が死亡した事件にぴったり該当する。

そして当時の防衛省、そして外務省にもかかわりがあり、何よりその情報の秘匿性が今回の事件につながる気がしてならない。


「でも室田さん。

 空挺部隊が派遣されたなんて話、聞いたこと無いですよ。」

「自衛官が死亡した事すら隠されていたんだぞ。

 派遣した部隊をごまかすなんてやりかねんだろ。」


岩崎は神妙に頷く。

そして今度はイラク派遣自衛官の死亡についての情報を検索し始めると、あるNGOのホームページに行き着いた。

NGOの名前は『あけぼの会』。活動内容には、公務員の業務による死亡の解明と損害請求とあった。


「死亡記事ですか。なぜ?」
「ネットで調べられるのはそれだけだからだ。
 退官した者の情報なんて、自分じゃあなんとも出来ねえだろ。」
「つまり、これで何も引っ掛からなければ、本部指示通りに防衛省を捜査対象から外すしか無くなるわけですね…。
 分の悪い賭だなぁ。」
「そういうの、嫌いじゃないだろ?お前もよ。」

岩崎は室田の顏を見ると不敵な笑みを浮かべた。
ホモのカップル扱かいされたショックは影も無い。
岩崎は片っ端に検索をかけ、室田は関係がありそうな情報を判断してゆく。
どれほどの時間がたったのだろうか。
次第に目頭は充血で真っ赤になり、朝に剃った髭が伸びている。
足の関節も節々が軋み集中力も散漫になってきた。
いくつか参考になりそうな自衛官の死亡記事・情報はあった。だが、本部指示を無視してまで捜査を進める自信を持てるほどでは無い。
やはり二人ではダメか…。あきらめかけた時、ふと室田は気がついた。
二人ではダメ…。そうだ、複数だ!
『狼男』と『鬼』の会話で『ニイ』と言うキーワードがでた。
では、二人とも自衛隊関係者の可能性があるじゃないか。 ならば…。

「岩崎、最低でも一度に二人以上の自衛官が死んだ事件、事故をしらべろ!」

岩崎は慌ただしくキーボードを弾く。

「これだ…。」

現れた検索結果を見ると室田は思わず洩らす様に呟いた。

『イラク派遣自衛官35名死亡』

これが、俺の探していた情報だ。
室田は詳細を読み始めた。
チェーン店や個人経営を含めて首都圏内にマンガ喫茶は何店舗あるか。そんな事は室田は把握などしていないが、今や駅前や繁華街のほとんどに一店舗は存在するほどある事は嫌でも理解できる。
室田と岩崎は近くの駅まで足を進めると、雑居ビルに入っているチェーン店のマンガ喫茶に入った。
真っ昼間に、いかつい男二人が並んで入ってくるだけでも不審なのに、室田が躊躇なくカップルシートを指定したからだろう。恐らくバイトであろう若い女性店員は一向に視線を合わせようとしない。
事態が呑み込めない岩崎も案内されたスペースまで顏を上げずにどこかバツが悪そうに歩いて付いてきた。

「絶対、あの娘誤解してますよ…。」
「そうか?」
「だって全然視線を合わせようとしないですし、何か変な気遣い感じたし。
 あ~、カワイイ娘だけに何かショックです…。」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。」

岩崎はどうやら本気で気にしているらしい。
妙なところで神経質な奴だ。

「室田さん。一体なんだってこんなところに?」
「署内じゃ、ネット検索の履歴が簡単に割り出されちまうだろうが。」
「公安のモグラ。そこまでやりますかね。」
「やるさ。」

もちろん具体的な根拠など無い。だが、確信出来る考えである。
慎重を重ねて損は無い。

「それで、何を調べるんです?」
「ここ2年間の自衛隊員の死亡記事だ。」