昔々、豊かな田畑に囲まれた小さな村がありました。

 

秋風がそよぐある年、村人たちは豊作を願って田んぼの真ん中に一体の案山子(かかし)を立てました。

 

藁で編まれた身体に、古い着物を羽織り、真新しい笠をかぶったその案山子を、人々は「カガネ」と呼び、毎日優しく声をかけました。



ある晩のこと。月がまん丸に輝く夜、村の子どもホタルが田んぼのあぜ道を歩いていると、案山子がひそひそと話す声を耳にしました。

「ホタルよ、ありがとう。お前の灯が、我が心を温める…」

驚いたホタルがそっと近づくと、案山子の目に見覚えのある優しい光がともっていました。カガネはこう語りかけます。

「わらわは、秋の実りを見守る守り神。しかし、人々の笑顔を何よりも望んでおる。

 

もしよければ、村に小さな幸せを贈らせてほしいのだが…」

ホタルは目を輝かせ、「はい、喜んでお手伝いします!」と答えました。



その翌朝、村中が驚く光景が広がりました。田んぼ一面に、小さな黄金色の稲穂が並ぶ中、畦道には数えきれぬほどの野花が咲き乱れ、やさしい香りが風に乗って村じゅうを包んでいました。

 

さらに、稲穂の穂先には小さな鈴が揺れ、触れると澄んだ音色が子守歌のように響き渡ります。

村人たちは大喜び。子どもたちは畦を駆け回り、鈴の音に合わせて歌い踊りました。

 

老人も若者も胸を熱くし、「こんな豊かな秋は初めてだ」と涙を流しました。

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その晩、ホタルが田んぼを訪れると、カガネは静かにほほえんでいました。

 

けれど、その夜を最後に、カガネは二度と口をきかなくなり、翌朝にはどこにも姿を消していたのです。

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村人たちは語り継ぎました。


「カガネは大地の願いを、一度だけ贈りに来てくれた守り神だったのだ」と。

そして、秋風が立つたびに、どこからともなく聞こえてくる鈴の音が、

 

今もなお村に幸せと豊穣をもたらすと信じられているのです。