3月20日
15時頃、仕事をするために椅子に座ろうとした際、なぜか軽い息切れを起こした。
何もしていないのに呼吸が乱れたことを不思議に思ったが「毎日頑張ってるから疲れてるんだろうな」と納得し、「よし、今日も頑張るぞ」と笑顔を作り、自らに気合を入れたことを良く覚えている。
今考えれば、血管が詰まる前兆だったのだろうが、この時は分かるはずもなかった。
仕事をひと段落させ、晩ご飯を済ませたあと、歩いて7分くらいのスーパーへ行った。
行きも帰りも息切れ等はなく、特に変わったこともなかった。
20時過ぎに帰宅。
台所でコーヒーを入れ、飲みながら自分の部屋に向かう途中で妙な咳が出た。
今まで経験したことがない程の大きな咳だった。
この咳も何かの前触れだったのだと思うが、やはりこの時は気付かず、単にコーヒーにむせてしまっただけだと思った。
それからしばらくして、胸の痛みが始まった。
時間は20時半頃。
言葉で表現するのは難しいが、胸を中から押されているような奇妙な感覚。
強烈な痛みではなく「何だろう、これ?」といった程度の鈍い痛みだった。
時期が時期だけに、まず最初にコロナウイルスのことが頭をよぎった。
あるいは、大きな咳をしたせいで、肉離れでも起こしてしまったのだろうかとも思った。
しばらく考えていたが、痛みがぼんやりとしている為、本当に胸が痛いのか、肺が痛いのか、肉離れをしているのか、それとも別の場所が苦しいのか、いつの間にか自分でも良く分からない状態になっていた。
かつて父親がかかった「心筋梗塞」というフレーズも一瞬脳裏に浮かんだが、40代半ばで心筋梗塞なんて有り得ない……と、可能性を除外してしまっていた。
そんな中、10年以上前の出来事を思い出した。
ある日突然気分が悪くなり、しばらく横になって苦しんでいたのだが、何となくトイレに行ってみると、すぐに具合が良くなったということがあった。
その時とは症状は異なるが、試しにトイレに行ってみた。
そうすると、さっきまでの痛みが嘘のように消えていった。
なぜ痛みが止まったのかは分からない。
もしかすると、身体を動かしたことで、偶然に血流が一旦回復したのかもしれない。
しかし「一度痛みが止まった」という事実が、のちの判断を誤らせる原因になってしまった。
10分ほどして再び痛みが始まり、続いて大量の冷や汗も出てきたが、先程のことがあったので「胸ではなくお腹が痛い」と思い込んでしまい、その後何度も何度もトイレに行くことになる。
また、風呂に浸かって身体を温めてみたり、横になって休んでみたりしてみたが、一向に痛みが改善することはなかった。
数時間後、さすがにこれはおかしいと思い、改めてネットで「心筋梗塞」と検索してみた。
調べてみたところ、やはり今の状況に合致するように感じた。
もしも本当に心筋梗塞だとしたら一刻を争う。
1時半頃、119番に電話をかけた。
意識はしっかりしていたし、普通に動くこともできたので、寝ていた家族を起こし、スマホやノートPCなど仕事に必要なものをリュックに放り込み、外に出て救急車を誘導した。
心筋梗塞の場合、後遺症を残さないためには2時間以内に治療をする必要があると言われているが、すでに痛みが始まってから5時間が経過していた。