イスラエルからの無言の帰宅(タイ) | 「アジアの放浪者」のブログ

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10月7日に発生した、ガザ地区のハマスによるイスラエル急襲。

一般市民を含め、イスラエル側に多数の犠牲者が出ましたが、その犠牲者のうち少なくても30人が、タイ人出稼ぎ労働者です。

 

そして10月20日早朝、その30人のうちの8人の遺体が、無言でタイに帰国しました。ご冥福を心からお祈りいたします。

 

 

ご遺体は葬儀会社が手配した車で、それぞれの故郷に向かって出発しています。おそらく昨日、ないし今日から、ご葬儀が営まれていることでしょう。この8人は、斡旋業者によってイスラエルに出稼ぎに出ましたが、タイ政府労働省に正規に国外労働登録が為されていたことから、タイ政府から40,000バーツ(約16万円)の見舞金が出るそうです。またタイにあるイスラエル大使館は、未亡人となった人には再婚するまで毎月40,000バーツを補償金として支払う意向を示しています。また犠牲者に子どもがいるのであれば、その子たちが18歳になるまで、同大使館が毎月8,000~12,000バーツ(約32,000円~48,000円)を支援することになりそうです。

 

イスラエルには、帰国を希望しているタイ人が7,000人以上いるそうです。タイ政府は空軍機を派遣したり、またチャーター便を手配するなどして対策を進めていますが、これだけ多くの人を救出するには、もっと時間が必要でしょう。

 

一方、ハマスや他の武装組織に拉致されている人質。その数、少なくても200人とのことですが、その中に19人のタイ人が含まれています。こうした状況のなか、在タイ・イラン大使館のセイド・レザ・ノバクティ大使が、バンコク都内で開催された会合に出席し、次のように述べています。

 

 

「イラン政府を代表して、犠牲となった多くのタイ人に弔意を表したい。また人質の安全をたいへん憂慮している」

「先週、イランのライースィー大統領がクウェートでハマスの代表と対談している。その際、大統領はタイ人とフィリピン人の人質を早期に開放するように求めた」

「ハマスの代表は、両国の人質は無事であり、また即時に開放したいとの意向を示したが、イスラエルの爆撃が激しく、人質を安全に移動させることができないと話した」

「実際、ハマスは人質の一部をエジプト政府に引き渡そうとしたが、移送中、イスラエルの爆撃を受けた。残念なことに70人が死亡した」

「それゆえ、タイ政府とタイ国民には、イスラエル政府に無差別爆撃を今すぐ停止するよう、強く訴えて欲しい」

「パレスチナ側は、停戦交渉に入る用意ができている。我々は、イスラエル側も交渉のテーブルに着くことを期待している」

 

 

うーん、この発言をどこまで信じるか。

 

実は働いていた農場が襲撃され、5発の銃弾を受けながら、なんとか生き延びたタイ人がいます。彼はハマスが、「お前たちはイスラエル人のために働いて幸せなんだろう?」と言いながら、彼のタイ人同僚4人を撃ち殺したと証言しています。これはハマスがイスラエル人以外の人間も、無差別に標的にしていたことを示唆しています。

 

生存者の証言を聞いていると、セイド大使の話には胡散臭さを感じますが、しかしこれが外交なのでしょう。日頃から「対話によって平和を構築しよう」と主張している人たちは、この大使の発言にどのように反応するのでしょうか。大使の主張に腹の虫がおさまらない私は、どうも外交官には不向きです。

 

「ガザ地区に住むパレスチナ人を不必要に追い詰めて、テロ行為に走らせたのはイスラエル政府の政策ミスだ」。

この意見には同意します。しかしだからといって、一般的なイスラエル市民ばかりでなく、外国人労働者まで無差別に殺害することが許されるのでしょうか。その理屈が通るなら、いじめを受けた人が、いじめた人を殺害しても正当化されてしまいます。

 

ハマスには怒りを覚えますが、ガザ地区にはハマスとは無関係のパレスチナ人がおおぜい住んでおり、彼ら・彼女らを無差別に爆撃するのも、ハマス同様、犯罪行為だと感じます。やはりイスラエル政府には、陸上侵攻を断念する勇気をもって欲しい。そして国際刑事裁判所が、ハマス幹部の刑事責任を追求すべきだと思います。ただパレスチナは同裁判所に締約していますが、イスラエルは締約していません…。都合の悪いことがあるんでしょうねぇ。いやぁ、世界はやはり、複雑です。