生き残った野党の芽(カンボジア) | 「アジアの放浪者」のブログ

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6月5日、カンボジアで地方選挙が行われました。

カンボジアの地方政治は、日本の県議会に相当するものはなく、「サンカット」「コミューン」と呼ばれる最小行政自治体(日本の「村」に相当)の議会議員選挙のみです。詳しくは、過日まとめたブログをご参照ください。

 

 

各村落レベルでの開票作業はすでに終了し、現在、開票結果の確認作業が行われているところです。選挙管理委員会が選挙結果を公式発表するのは、おそらく6月下旬頃になるだろうと言われています。

 

今回、カンボジア国内にある1,652のサンカット/コミューンで、17の政党から86,000人あまりが、定員総数11,622議席の村議会選挙にチャレンジしました。この選挙には、カンボジア国内外のNGOが、合わせて約70,000人のボランティアを動員して選挙監視にあたってきましたが、おおむね公正な選挙だったそうです。

 

選挙自体はおおむね公正だったにしても。

ここに至るまでの野党に対する政府(フンセン政権)からの圧力は、並大抵のものではありませんでした。カンボジアの場合、政府と行政と司法がガチに連携していますから、野党が力をつけてきたならば、フンセン首相は直ちに国家権力を総動員して野党潰しにかかります。

 

2013年の国民議会(下院)選挙で、当時の最大野党「カンボジア救国党」が得票率44%超えとなり、与党「人民党」に迫る勢いとなりました。フンセン政権の独善的な政治や腐敗が、多くの国民から「No!」を突き付けられたかたちです。

 

さらに2017年に行われた前回の地方選挙では、一部のサンカット/コミューンで「カンボジア救国党」が勝利。この勢いなら、5年後の総選挙(2018年)では、与野党逆転もあり得る。多くの人が、そう予測しました。

 

ところが。

フンセン首相は、2016年後半から、徐々に「カンボジア救国党」への圧力を強め始め、2017年9月には同党のケム・ソカー党首を「国家反逆罪」の容疑で逮捕。同党自体も、11月に最高裁判所によって解散命令が出されてしまいました。「国家反逆罪」…と聞くと、たいへんな悪だくみを連想しますが、ケム・ソカー党首の場合、「政権を握った暁には、三権分立を心がけて政府の腐敗を一掃し、民主化を推進する」という口頭での約束を、西側諸国の外交官と交わしただけ。これで国家体制の転覆を計ったとされてしまった…。

 

フンセン首相の指示を受けた内務省も直ちに動き、「カンボジア救国党はクーデターを画策していた」と最高裁判所に告発。最高裁はそれを受理して、即座に解散命令を出したのです。ケム・ソカー党首逮捕からわずか2ヵ月後。解散命令と同時に、同党幹部ら118人が「5年間の政治活動禁止」にもなってしまいました。

 

つまり、この有力野党はフンセン政権によって不当に潰されてしまったわけです。

そして、有力な野党政治家不在のままで迎えたのが、今回の地方選挙。「カンボジア救国党」の元支持者らが、新党「ろうそく党」を設立し、有力幹部不在の中でも、結束して与党「人民党」に対抗しました。その結果は、どうやら予想以上の健闘だったようです。以下、ロイターの報道です。

 

 

フンセン政権に潰された、有力野党。

しかしその根は辛うじて生き延び、どうやら再び、芽を出してきたようです。「政治を変えなければ」という一部のカンボジア国民の情熱が、「ろうそく党」の萌芽に結集したんですね。

 

今回の地方選挙で健闘したとはいえ、それでもまだ、「ろうそく党」は絶対的少数派。

来年の国政選挙(下院議会選挙)に向けて、どれだけ国民の支持を伸ばしていけるか。

可能性は未知数ですが、私は大いに期待しています。