けっこう、借金が少ない(カンボジア) | 「アジアの放浪者」のブログ

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5月19日、スリランカがデフォルト(債務不履行)に陥りました。

報道では、「中国による債務の罠にはまった」とされています。たしかに、中国政府からの巨額融資を受け、スリランカ政府は嬉々として港湾、空港、高速道路などのインフラを整備してきました。しかしどの社会インフラも需要予測が甘く、完成後も借金の返済どころか、大規模赤字が続いています。それゆえ、スリランカ政府はこれまでも返済に困窮し続けており、2017年にはハンバントータ港の経営権が中国国有企業の手に渡っています(99年間のリース契約)。

 

スリランカでは、コロナ禍で大切な外貨獲得源であった観光収入が落ち込んだことが、デフォルトの直接的な原因だと指摘されています。それは間違いないのですが、しかしスリランカの対外債務は、コロナ禍前から対GDP比で60%を超え、危険水準にありました。つまり危険性はすでに高かったところ、コロナがデフォルトの時期を早めたといえます。

 

デフォルトと簡単に言いますが、人々の実際の生活においては、石油や日用品などの輸入品目が入手しずらくなり、本当にたいへんです。私もかつて、ネパールで13時間の計画停電を経験しましたが、これは半端なくたいへん。1日だけでも不便なのに、これが連日続くのですから、スリランカの人たちはたいへん厳しい状況にあると同情しています。そういうことですから、ところどころで反政府運動が盛り上がっていることも、当然そうなるだろうと思っています。

 

 

さてこうなると、「カンボジアだって、危険なんじゃないか」と心配する声が聞こえます。

 

中国政府とカンボジア政府の蜜月関係はよく知られているところですし、コロナ禍によって、アンコールワットに代表される観光業が甚大な影響を受けていることも、スリランカと重なります。スリランカのデフォルトの次は、カンボジア…?

 

でも実はカンボジア。

アジア開発銀行の統計によれば、カンボジア政府の公的対外債務の合計は、2022年にGDPの36.2%、2023年に37.1%という管理可能なレベルに収まっています。債務の罠にはまってしまう危険性は、中程度なのです。少なくても現時点で、カンボジアがデフォルトに陥る危険性はまったくありません。

 

これは、フンセン首相の独裁体制が、意外にも(?)功を奏しているからだと思います。

どういうことかといいますと、これだけ安定した独裁体制を維持していると、国民の人気取りのための施策を行う必要がありません。つまり、選挙のたびに国民受けする公約=政府支出を増やす公約を連発し、選挙後それに縛られる必要がないわけです。

 

国会も、「人民党」の一党独裁という状態なので、行政を監視する機能をまったく果たしていません。そのためフンセン首相やその側近たちは、私腹を肥やすことに注力しつつも、国家財政についてはテクノクラートたちによる運営を信頼し、国民にとって大きなサポートとなる支出(社会保障費)を抑えることができるわけです。

 

おそらく、コロナ禍で国民の生活を支援する政策を次々と打ち出し、次の選挙で優位に立とうと苦心しているタイ政府にしてみれば、カンボジアの政治的安定はとても羨ましいことでしょう。タイは政治的安定がいまひとつの状態が長く続いてきたため、対外債務のGDP比も、2019年次の41%から2021年次は55.6%まで上昇しています。もちろん、国民の生活を支援する政策自体は重要なのですが、タイの場合、政治家や公務員による「中抜き」が酷いんですよねぇ。それに一国の政府の経済対策というものは、国民の所得を増加させ、公的助成を受ける国民を減らすことが第一義のはず。しかしタイではそのような好ましい展開にならず、公的対外債務の急増が懸念される水準にまで達しています。こうした事実も、タイ政府が水際対策を緩和してガイコク人観光客を早く呼び戻す理由のひとつとしてあるわけです。

 

カンボジアの独裁体制が、公的債務の増加を抑えている…。

なんとも腑に落ちない状況ですが、公的債務を増やして国民生活を守る方ことと、公的債務を抑えて国民にも我慢を強いることと、どちらが長期的に国民のためになるのか、大いに判断に迷うところです。

 

日本の財務省高官は、後者を望む立場でフンセン政権を褒めたたえるかも知れませんが…。

 

下の写真はカンボジアのフンセン首相。独裁者でありながら、マイルドな側面もあります。