タイに住んでいますと、充実した屋台のおかげで、実に豊かな食生活がおくれます。
ただ、特に都市部では屋台の数があまりにも多いので、自然に競争が激しくなります。そのため、美味しい屋台は生き残り、そうでない屋台は淘汰されてしまいます。いや、たとえ美味しくても、売り手の接客マナーが今ひとつであれば、やはり収益をあげることは難しいでしょう。もとから薄利多売ですし…ね。
競争が激しいからこそ、売り手もさまざまな工夫をします。一番手っ取り早いのが、体の露出度を高めて人々の目を引くこと。それゆえ、男女問わず、こういう姿で屋台営業する売り子が後を絶ちません。
でも、このような「性」を強調した目立つ姿で営業をすることは、一部の市民からは歓迎されるものの、一部の市民からは強い非難を受けます。そして警察からは「公序を守れ」と注意され、役場からは「食品衛生上、問題がある」と指導が来ます。
しかしどうやら、人間の叡智はこうしたギャップを埋めることを可能としたようです。
その智者が、ブリラム県の路上で塩漬け果実やお米の焼菓子を売っている36歳の女性、パトゥムさん。本職はタイの地方部で見られる、「リケー(Likay)」という大衆劇の女優さんです。リケーというのは、村祭りの際などで設置される仮設舞台で、物語や喜劇、踊りなどを披露する伝統芸術のひとつです。
しかし残念なことに、現在はコロナの影響で、村祭りの開催が自粛されています。そのためパトゥムさんは、これまでも公演の合間に副業としてやっていた路上販売に傾注せざるを得ませんでした。
普段の1日の売り上げは。1000バーツ~1200バーツ程度(約3500~4200円)。でもこの額を、もう少し伸ばしたい…。
パトゥムさんの叡智は、ここで発動されます。以下の写真が、その叡智結集の成果。
実はこの水着姿、エプロンの絵柄なんです。
たしかにこれなら、一部の市民からの苦情もなく、警察、役場からも難癖…否、教育的指導が飛んできません。すばらしいアイデアです。
パトゥムさん、このエプロン効果により、1日の売り上げが2000バーツ(約7000円)にまで伸びたのだとか。めでたし、めでたし。
並々ならぬ、工夫。とてもいいアイデアであることは間違いありませんが、ただこのエプロン効果、いつまで続くか。
それに、こういう報道が出ましたから、各地で便乗する売り手さんたちも増えそうです。
ひとつ、いいアイデアが浮かんだからといって、それに固執してあぐらをかいてしまったらいけません。
パトゥムさんも、水着エプロンで今日も路上に立ちながら、次のアイデアを考え始めているそうです。こういう不断の努力が、とてつもない叡智を生み出すのでしょうね。
パトゥムさんと比べてこの私は…。「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と、チコちゃんに叱られそうです。
【余談】
強い日差しの中、通りで食品を売っているパトゥムさん。暑い筈ですけれど、帽子をかぶり、厚手のマスクをして、長袖、手袋姿…。これ、いつでも女優として本職に戻れるように、できるだけ日焼けを防いでいるんでしょうね。こうしたところもパトゥムさん、プロ意識大です。