タイの青年さん、焦らずに | 「アジアの放浪者」のブログ

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7月18日は、民主化を求める学生、青年の団体がバンコクで反政府集会を開きました。数千人が集まったようです。

そして翌19日は、タイ北部のチェンマイや東北部のウボン・ラチャタニで。そして23日には東部チョンブリでも反政府集会が開かれています。

 

どの集会でも、共通して次の3点が主張されました。

〇内閣の即時総辞職

〇2017年に制定された憲法の廃止

〇反政府運動家への弾圧停止

 

ここにきて政府への批判が高まっている理由は、新型コロナウイルスの封じ込めに成功しているのに(タイはもう2か月近く国内感染が確認されていません)、プラユット首相の強権が認められる「非常事態宣言」が、8月31日まで延長となったからです。「新型コロナを延長の理由にしているが、本当のところは政府への批判を抑えるための非常事態宣言延長だ」。少なからぬタイ国民が、そのように受けとめています。

 

一方、非常事態宣言延長に対するタイ政府の説明は、次の通りです。

〇間もなく、これまでタイ入国を認めてこなかった外国人労働者に対する入国制限緩和が始まる。具体的には、労働許可証を持っている外国人及び建設作業、食品加工作業に従事するラオス、ミャンマー、カンボジア人。強制検疫隔離14日間は必須なものの、感染第2波が発生する可能性はゼロではないため、いざという時のために宣言を延長するのだ、というものです。

さらに政府は、青年たちの懸念を払しょくするために、「8月1日からは、非常事態宣言を反政府集会を取り締まる理由に用いない」と説明しています。これは、国家安全保障会議事務局長、ソムサック陸軍大将の約束です。

 

なので、学生・青年の皆さん。

8月に入ったら、どうぞ遠慮なく平和的な反政府集会を各地で行ってください。

でも、是非とも留意していただきたいことがあります。それは、2010年の反政府運動で中核となっていた赤シャツ派トップ幹部、ジャトゥポーン・プロンパン氏の青年たちへのアドバイスと重なることです。

 

ジャトゥポーン氏はマスコミの取材に応え、青年たちにこうアドバイスしました。

【政府批判は大いに結構。でも王室批判という一線は絶対に超すな】

 

 

さすが一時は反体制派、反政府派の雄であったジャトゥポーン氏。自らの体験から得た貴重な教訓でありましょう。

 

ところで、青年たちの意見を聞こうと、下院議会が特別委員会を立ち上げ、公聴会を開こうとしました。しかし残念ながら、青年たちを支持者とする野党「前進党」は、特別委員会の設置に反対。理由は、「単なる時間稼ぎに過ぎない」としているからです。

 

馬鹿者。

たかだか数千人の動員で、うぬぼれるんじゃない。もっと時間をかけて、支持者をどんどん増やしていかないと。ここは変革を焦る時ではない。今の下院議長はチュアン・リークパイ氏。民主党出身で首相経験者。清廉潔癖と評価されている政治家でもあります。ここは是非とも味方につけておけ。オッサン+外国人である私は、そんな思いでいます。

 

青年たちが批判している2017年に制定された憲法は、いくつか非民主的な条項があるのも事実ですが、一応、国民投票で承認を経た憲法です。内容に異議があろうとも、手続き的には民主的だったのです。さらに、国民投票を受けて最後に国王の署名を求めた段階で、国王自ら修正を指示しています。それは、

 

〇国王が海外に滞在する時は摂政を指名する、という条文を削除すること。

〇憲法に明記されていない事態が発生したときは、憲法裁判所が合議により判断をする、という条文を削除すること。

 

この指示は衝撃でした。何しろ、国民投票後の修正指示でしたから。もちろん誰も声をあげませんでしたが、「主権は誰か」という問題を浮かび上がらせるに十分だったのです。

 

このため国王は、現在ドイツにいる時間が長くタイを不在にしていても摂政が置かれず、また微妙な問題が発生した場合は国王にその都度裁可を求めざるを得ない状態になっています。すなわち、青年たちによる2017年憲法の否定は、国王自身が「私に対する不敬だ」と受けとめる危険があるわけです…。

 

世界的にトップクラスであるタイの貧富格差を解消するためにも、憲法改正及び総選挙の実施に賛成します。でも、変革へのうねりはまだまだ小さい。ここで焦っては、体制側の罠にはまることが心配です。どうぞじっくりと、土台を構築してほしいと思います。