ケシ栽培を巡る攻防 | 「アジアの放浪者」のブログ

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ミャンマー北部にカチンと呼ばれる州があります。
人口170万人ほどの山岳地帯ですが、ここはシャン州と並び、アヘンの原材料となるケシ栽培で有名な地域です。

とはいえ、カチン州住民の多くがケシ栽培に関わっているわけではありません。カチン州住民であっても、麻薬撲滅に積極的な人たちも少なくないのです。そしてケシ栽培撲滅に強硬な集団が、ケシ栽培農民と衝突する事件が発生しました。2月25日のことです。

この集団、PAT JASANは、キリスト教プロテスタントの一派であるバプテスト信者が中心になって構成されています。2年ほど前に結成され、今では活動家が10万人以上いるようです。その主活動は、迷彩ジャケットを着て定期的にパトロールを実施し、ケシ栽培やその売買に関わっている人物を警察に通報することです。この点、カチン州の治安維持当局と健全なつながりがあると言えます。

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しかし今回、PAT JASANはケシの栽培をしている山間部に直接入り込み、実力でケシを伐採しようとしたのです。これにはさすがに州政府も大慌て。治安維持部隊がケシ栽培地域への行進を思いとどまらせようと1週間に渡って交渉しましたが、ついに決裂。止む無く治安維持当局が部隊を撤収し、彼らは行進を再開。いよいよケシ栽培地域が近づいてきたところ…。

正体不明の武装勢力が彼らを襲撃。PAT JASANメンバー数十人が負傷しました。襲撃者は、ケシ栽培に従事している農民や麻薬密売組織関係者と推測されています。この衝突事件により、PAT JASANも実力行使を断念。さもなければ、さらに多数の死傷者が出ていたことでしょう。

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世界各地の違法薬物規制や犯罪撲滅に取り組んでいる国連薬物犯罪事務所(UNODC)に寄りますと、ミャンマーはアフガニスタンに次いで、世界第2位のケシ栽培国とのことです。1999年には、およそ9万ヘクタールの栽培面積があったとされています。その後ミャンマー政府やNGOなどの取り組みによって栽培面積は減少し、2006年には2万1千ヘクタール程度となりました。

しかし、中国やオーストラリア、さらには日本からの需要の高まりにより、近年は栽培面積が増加傾向にあるのです。日本のNGOが、ケシ栽培をソバ栽培に転換させる試みを続けていますが、2014年の統計では、栽培面積は5万ヘクタールを超えています。2006年当時と比して、2倍になってしまったのです。

麻薬売買はとうてい認められませんが、実力行使がいいとも思えません。PAT JASANの自警団的な取り組みには敬意を表しますが、農民の生活にも配慮しないと、ケシ栽培の排除は難しいかと。

まぁ、こんなきれいごとを言っていては、麻薬撲滅など不可能なのかもしれませんが。