習主席のネパール訪問 | 「アジアの放浪者」のブログ

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昨日は、2016年10月13日に崩御されたタイのプミポン前国王の祥月命日でした。

タイ各地で前国王を偲ぶさまざまな行事が行われましたが、今日はネパールのことを記事にします。

 

中国の習近平国家主席に、10月12日、13日とネパールを訪問しました。

中国の国家主席がネパールを公式訪問するのは、実に20数年ぶりだとか。

しかし、かなりタイミングとしてはかなり慎重に図られた印象です。

 

10月12日17時頃。習主席を乗せた特別機がカトマンズ国際空港に到着。ネパールの国家元首であるビドヤ・デヴィ・バンダリ大統領(写真にあります通り、女性です)の出迎えを受けました。そして二人は、習主席の宿泊先であるカトマンズの最高峰ホテル、ソルティー・クラウン・プラザ・ホテルへ。これ、英国系の国際ホテル・チェーンです。

 

 

連邦共和国制を取るネパールでは、大統領は象徴的な国家元首。政治の実権は総理大臣にあります。そして現在のネパール総理大臣は、ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派のカドガ・プラサード・シャルマ・オリ氏。ベテランの政治家で、外交・経済政策では、親インド派というよりは親中派に分類されています。

 

 

南の隣国インドへの経済的依存度が高すぎるネパール。北の隣国中国との関係を強化することで、インドを牽制したい考えです。

ただ、北の隣国中国との国境には、ヒマラヤ山脈が連なり、またチベット自治区があります。この地理的制約から、ネパールと中国はつながりを十分強化できずにいました。

 

しかし、習近平主席が掲げている「一帯一路構想」には、もちろんネパールも含まれています。

今回の訪問で習主席は、「今後2年間にわたって総額560億ネパール・ルピー(およそ550億円)の経済支援を行う」と発表しました。

その支援の目玉のひとつが「中国とネパールをつなぐ鉄道を建設するための事前調査」です。

 

先述の通り、中国とネパールの間にはヒマラヤ山脈が横たわっています。

そこにトンネルを掘り、鉄道を建設する…。これは壮大な計画です。もちろん、今回は「鉄道を建設する」と宣言したわけではなく、あくまでも可能性調査を行うということです。しかしもし仮に鉄道が建設されたなら、これまでの過度のインドへの経済依存から脱却できる…。インドとの関係が悪くなるたびに、石油や灯油の輸出が制限されるなど、経済的な圧迫を受け続けてきたネパールにとって、中国との貿易路が拡大することは大きな希望を得ることになります。

 

とはいえ、いいことばかりではありません。もうひとつの大切な政治的ポイントがあります…。

中国は、チベット民族との問題を抱えています。中華民族から不当な経済的搾取を受けているチベット自治区では、中国からの独立を画策しています。日本でも有名なダライ・ラマ師が、チベット亡命政府を樹立していることはよく知られている話です。

 

そしてネパールには、多くのチベット民族が生活しています。中国政府からの圧力を受け、チベット自治区から逃れて難民化しているチベット人も少なくないのです。すなわち、ネパールには香港のように、「反中国」の火種が根強く存在しています。

 

今回の経済支援と引き換えに(といったら、言い過ぎかも知れませんが)、ネパール政府は国内のチベット民族による反中国運動を抑えることを約束しました。またネパール政府は、「中国はひとつ」という点でも合意しています。これは台湾への牽制となります。

 

習主席は、香港暴動のきっかけとなった「犯罪容疑者の相互引き渡し」についても合意したかったようですが、今回はそこまでには至りませんでした。私はこれは、香港の青年たちの勇気ある行動の成果のひとつだと受けとめています。東の香港、西のチベットでそれぞれ暴動・騒乱が発生したら、習政権の基盤が揺るぐことは間違いありませんから。

 

 

西側諸国からは、中国とネパールの関係強化を懸念する声も出ています。

「一帯一路構想を基盤とする中国経済圏へ取り込まれてしまうのではないか。ネパールのためになる合意ができれば歓迎するが、借金漬け政策の罠にかかってしまうのではないか」。

この懸念は、私も共有したいところです。ネパール、がんばれ。主権が侵害されてしまうほど、中国経済圏に過剰に取り込まれませんよう…。