「お申し込みはこちら」
そこまで書いて、消してしまう。少し考えて、「興味のある方は、よかったら」と書き直す。それでも何だか落ち着かず、結局、案内を下書きへ戻す。
自分のサービスを知ってほしい。できれば、申し込んでもらいたい。でも、いつも記事を読んでくれる人に、「結局、何かを売りたかったんだ」と思われるのは怖い。
役に立つことを書いている時には出てきた言葉が、自分の仕事を案内しようとすると、急に出てこなくなる。売り込みに見えないように言葉を選んでいるうちに、肝心のサービスが、文章から見えなくなってしまう。
描く人は言い出せない。頼みたい人は、頼めると知らない。
たとえば、SNSに自分の描いたイラストを載せている人がいる。「この絵、好きです」と言ってもらえることが嬉しくて、少しずつ作品を載せてきた。
今度は、SNSのアイコンに使う似顔絵を、有料で描いてみたい。絵柄の見本をそろえ、料金も決めた。でも、募集のお知らせが出せない。今まで楽しんで見てくれていた人に、お金の話をするのが気まずい。
一方で、その絵を見ている人の中には、こんなふうに思う人もいるかもしれない。
「この絵柄、好きだな。自分のアイコンも描いてもらえたら嬉しいな」
その人は、依頼について何か書いていないか、プロフィールを開く。けれど、そこにも「似顔絵の依頼を受けています」とは書かれていない。作品の紹介はあっても、料金も、頼み方も見つからない。
趣味で描いているのかな。知らない人から急に頼まれたら、困るかもしれない。聞いてみようか迷って、そのままページを閉じる。
描く人の手元には、料金も、募集の下書きもある。でも、それを見せていない相手には、仕事として頼めることさえ伝わっていない。
描く人は「売り込みだと思われたくない」と言い出せず、頼みたい人は「頼んでもいいのかな」と聞けずにいる。案内を書く前に、そんな相手の迷いにも目を向けてみると、書きたいことが少し変わってくると思う。
頼む前に知りたいことを書く
アイコンを頼みたい人は、どんなことを知りたいだろう。
顔写真をそのまま載せるのは、少し照れる。でも、自分らしいアイコンにしたい。好きな色を使ってもらえるのか。明るい感じや、落ち着いた感じなど、希望を伝えてもいいのか。
描く人が、そうした希望を聞きながら似顔絵を描けるなら、案内にもそのことを書ける。
SNSで使う似顔絵アイコンの依頼を受けています。顔写真をそのまま使うのは少し照れるけれど、自分らしいアイコンにしたい方へ。好きな色や、明るい感じ・落ち着いた感じといった希望を聞きながら描きます。絵柄の見本と料金、完成までの日数はこちらにまとめています。
これなら、見ている人も「好きな色で描いてもらえるんだ」「希望を伝えていいんだ」と分かる。見本を見て、料金を確かめて、自分も頼んでみたいかを考えられる。
料金を書くのをためらって、「詳しくはお問い合わせください」だけにしておくと、相手はまず、値段を聞くところから始めなければならない。「聞いたあとで、予算が合わなくて断ることになったら……」と、連絡をためらう人もいるかもしれない。
料金や完成までの日数が書いてあれば、問い合わせる前に、自分の予算や予定に合うか確かめられる。
相手を気遣うなら、こんなふうに、頼む前の不安を減らすこともできる。何を頼めるのか、いくらかかるのか、どう申し込むのか。知りたいことが分かる案内は、頼みたい人の助けにもなる。
自分のサービスでも、申し込む人の立場で案内を読み直してみる。「何をしてもらえるんだろう」「いくらかかるんだろう」と、聞かないと分からないことが残っていないだろうか。
その仕事を続けたい、という願いも大切にする
ここまで書いても、まだ「申し込んでほしいと思う自分は、欲張りなのかな」と感じることはあると思う。
この絵を描く人にも、依頼を受けたい理由がある。自分の絵を気に入って、使ってくれる人が増えたら嬉しい。描いた絵にお金を払ってもらえて、それが暮らしを支える仕事になったら、もっと嬉しい。
好きで続けてきたことを、これからも続けられる仕事にしたい。そのために、見本をそろえ、料金を考え、募集の文章まで書いた。
それなのに、「申し込んでほしい」と思った途端、自分が悪いことをしているような気持ちになってしまう。
「絵を描く仕事で暮らしていきたい」。その願いがあるからといって、誰かに喜んでもらいたい気持ちまで、嘘になるわけではない。僕は、どちらも大切にしていいと思う。
もちろん、今は必要のない人もいる。絵柄の好みや、予算が合わない人もいる。その人たちには、見送ってもらっていい。
だから、できることと料金をきちんと伝えて、頼むかどうかは相手に選んでもらう。申し込んでほしい気持ちがあっても、相手の選択を大切にすることはできる。
次に案内を書こうとして手が止まったら、「売り込みだと思われないかな」に加えて、「頼みたい人が、頼み方を見つけられるかな」と、読み返してみる。
「お申し込みはこちら」
書いては消していたその一行を探している人が、いるかもしれない。
もう少し読んでみたい方へ
自分の商品を売りたい人へ。「この人から買いたい」を育てる発信。
普段の取り組みや想いが、「この人から買いたい」という気持ちにつながることについて書いています。
役に立つ記事を書きたい人へ。答えを増やす前に、読者の迷いを一つ減らす。
情報をたくさん入れる前に、読者がどこで迷っているかを考える記事です。
