実話をもとにした、イギリスのテレビ映画。
こっちじゃ放送されてないから見たことはないが、犬飼いの間では評判らしい。
自閉症の少年が、ゴールデンレトリバーの子犬を飼いはじめてからそれまで
閉ざしていた心を開き出し、どんどん変っていく様子が感動的なのだとか。
犬によるこの手のセラピーは今に始まったことではないし、自閉症に限らず
いろいろな障害を持った子供たちが救われているという話はよく聞く。
それはそれで素晴らしいことだと思うが、しかし、こうしてテレビなどで評判
になると、「じゃ、犬を飼えばいいんだ!」と短絡的に考える親が出てくる
のが困る点だろう。
カナダでTABIのよき相棒だったボーダーコリーの雑種犬は、もとの飼い主が
そういった単細胞だった。障害を持って生まれた子供のためになるかと思い
子犬を飼ったのだが、そう物事は簡単にうまくいくはずもない。犬ならなんでも
セラピー効果があるわけじゃないし、なんといっても子犬自身が赤ちゃんで
周囲の保護や躾が必要な時期に、とりあえず人間の子供と一緒に置いておけば
なんとかなるだろう、と期待するほうがどうかと思う。彼ら夫婦は犬に対する
知識も全くなく、手のかかる自分の子供の他にイタズラ盛りの子犬の世話で
イライラするばかり。敏感な子犬は、そうした飼い主の感情を痛いほど感じて
病気になってしまった。
結局、獣医代がかかりすぎるという理由で捨てられたのだが、殺処分寸前に
新しい飼い主にひきとられた。ガリガリにやせ、毛が抜けて皮膚がボロボロ
だった子犬は、瞬く間に元気になり子犬らしい明るさをとりもどした。
私たちがこの子に会ったときは、病気で死にそうだったなんて信じられない
ほど健康そうで、美しいトライカラーのコートも艶々した、フレンドリーで
賢い犬に成長していた。ちなみに新しい飼い主は、この子のためにとくに高い
医療費を払ったわけでもなく、ただ普通に愛情をかけて世話をしただけだそうだ。
この子の場合はハッピーエンドだが、そうでない犬もきっと世の中には多いだろう。
自分の子供をなんとかして治したい親の気持ちはわかるが、犬だって感情のある
生き物だ。安易にセラピーまがいの道具として使い捨てするのは、あまりに
酷ではないか。