家中、真っ暗だった。
あとは寝室だけ。
決して広いマンションじゃないから、本当に怖くて。
あんなにルックスが良くても、やっぱり?
なんて不信感が勝って、怖くて仕方なかった。
「…おかえり。」
寝室の扉を開けると、ベッドの脇でベッドにもたれながら膝を抱えて埋まるドンへが、目に涙を溜めて私を静かにみていた。
「出ていくって、約束したじゃない。」
冷静に問いただす。
怒鳴ろうと思えばできたけど、何故かできなくて。
「ごめん。行くところがなくて…。出ていこうにもできなくて…。ごめん。」
そうして、膝の中に顔を隠して、肩を震わせていた。
「……ごはんは?」
「食べてない。」
「何も、しない?」
「しない!必要なら、なんだってする。だから…」
「……わかった。じゃあ、ごはんにしよう?」
私を見上げるドンへの顔が、悲しそうな表情から、まるで拾われて間もない子犬のように、少し明るくなった。
そうして、ドンへがちゃんと落ち着ける場所が見つかるまで、家にいてもいいことにした。
ただし、いくつか条件を付けて納得した上での約束。
「…毎月、決まった金額は納めて。養えるほど、いい仕事をしてる訳じゃないから。それから、私の目線より上に手を振り上げないで。洗濯物も別。家事は分担。それと…」
「手は出さないし、俺がいる間は、番犬になってあげる。」
ニコニコ頬杖をつきながら、目の前で約束事を大きく書く私をみて一言。
端正なルックスに、そんなセリフ。
一瞬、ガードを緩めそうになったけど、咳払いをして誤魔化した。
「…頼りなさそうだけど。そうしてもらえると、助かる。」
って、可愛げなくツンっとすると、視界の端でフニャリと微笑むドンへが、ぱぁっと、明るく満面の笑みで抱きついた。
「ありがとうっ!ぬなぁっ!」
「きゃあっ!」
思わず抱きついたドンへを突き飛ばしてしまった。
「あぅぅ。これで3回目…」
「ごめん。いきなり抱きつかれるの、駄目なの。その…怖くて…トラウマなの。」
悄気ながら謝って手を差し出すと、転げたドンへはその手を取って立ち上がった。
「それって、さっきの目線より上に手を振り上げないでって言うのと関係あるの?」
痛いところを突かれた気分だった。
間違いじゃないけど、ドンへには関係のないことだから。と、話はしなかった。
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