【書評】 ダビデの星を見つめて | "Food for Thought"

"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

『ダビデの星を見つめて』 寺島 実郎 著

 

 『ユニオンジャックの矢』で英国流の世界戦略、『大中華圏』でアジアで力を持つ華僑パワーを記述し、続く本書が3部作の完結編という位置づけです。世界に広がるユダヤ・パワーに焦点を当てたもので、著者が三井物産時代の体験も踏まえており、大変興味深く読みました。

 

いわゆる「ユダヤ陰謀論」とは全く異なり、帯にあるとおり、「体験的ユダヤ・ネットワーク論」。やはり、世界の要所要所にユダヤ・パワーありということがよくわかります。石油ショックの時に、富士重工業のみがアラブ市場を捨てて、イスラエルへと進出したことから、ユダヤ人には「スバルはベンツと並ぶ名車」と語られ、「スバルの星はダビデの星につながる」と、いまだにユダヤ系に強い人気を誇るそうです。また、エルサレムにある聖墳墓教会では、ローマ・カトリックの管理する領域は1割程度しかなく、9割は「正教系」などなど、「日本人の世界理解の限界になっていること」が多くの事例とともに語られています。

 

ユダヤ人の価値観が「高付加価値主義」(知恵を重視)と「国際主義」(世界的視野で物事を考える)というのは、まさに「体験的ユダヤ論」から出た著者の視点ですが、正鵠を得たものと思います。

 

かつて、寺島実郎氏の講演に参加した際、経済動向や地政学のデータ・グラフがぎっしり詰まった厚さ2㎝ほどの資料が配られ、「よくこれほどのファクトに目を通している」と感心しました。あくまでも冷徹に現実を見据えたもので、決して「ユダヤ陰謀論」ではなく、1ビジネスマン、1研究者が体験的に語った世界のなかのユダヤ・パワーを記述した内容です。プーチンのユダヤ嫌いも書かれており、いまのロシア、ウクライナを知る上でお薦めしたい1冊です。