田中の店に強盗が入った。

「このバッグに金を詰めろ。早くしないとこの包丁でひとつきにするぞ。」


深夜のコンビニ。他に客はいない。
田中はかつて経験したことのないシチュエーションに戸惑っていた。

「おいお前。聞いているのか。早くしないと殺すぞ。」

「はあ。」

田中が気のない返事をすると強盗は田中の目の前に出刃包丁を付き出した。

「おい、殺すぞ。わかっているのか」

「はあ。しかし、いままで殺されたことがないからなあ。殺されるということがどんなことなのかわからない。殺されるのと金を渡すのはどっちがいいのか、ちょっと悩ませてください。」

そういうと田中は腕組みをしてブツブツやりはじめた。

「ふうむ。面倒な店に入ってしまった。」



しばらくすると田中は言った。


「おまたせしておりますが、やはり殺されるという事のリスクを測りかねるのです。たぶんその包丁でヤラれると痛いんだと思いますがどうせいつかは死ぬわけで、その時は多かれ少なかれ痛かったり苦しかったりするんじゃないかなあ、と。私には家族がいますが、まあ保険とかもあるので私がいなくなっても路頭に迷うことはない。私自身はどうかというと特にやり残したこともないのでここであなたに殺されても、まあそんなものかなと。」


「ふうむ。俺は金を出さないのであれば殺すぞと脅しているのだ。しかしこうも覚悟されてしまうとやりにくくて構わん。もういい。他の店をあたる。」


そう言うと強盗は去っていった。
店を背に走りながら強盗はつぶやく。

「無気力と言うべきか、死を恐れぬ堂々たる態度というべきか。」