田中の夢は空を飛ぶことだった。

飛行機のような交通手段ではない。
ゴミゴミとした喧騒の街から自由な大空へと飛び立つのだ。



長年研究を重ねた結果、田中はついに飛行石を発明した。
この飛行石を握ると空を自由に飛び回ることができる。

田中は広い草原に行くと飛行石を強く握りしめた。
するとどうだ。
体がふわりと浮かび上がった。

「成功だ。ついにやったぞ!これでいつでも自由に空を飛びまわれる」

田中は喜びのあまり、うっかり飛行石を手放してしまった。
その瞬間田中の体は地面にたたきつけられた。
幸い2mほどしか上昇していなかったのでけがをすることはなかったが
今後飛行石を使う上で注意しなければいけないだろう。



コツを掴むと田中は飛行石を使い世界中を飛び回った。
それは素晴らしい体験だった。
爽快な風、美しい景色、そしてなによりも自由だった。



瞬く間に飛行石は世界中に広まった。
田中は大金持ちになった。





飛行石を発明して20年。
田中は地上1000mに浮かぶ自宅の窓から外を眺めていた。
外の景色はすっかり変わった。
人は今、空で生活をしている。
技術の発達で建物だけではなく、動物や植物も空に浮かべるようになっていた。
テレビでは連日、空人口増加による問題を報道している。



田中は飛行石を握りしめて外へ出た。
少し騒がしい。どうやら交通事故のようだ。
空の世界でも交通事故はある。



田中はなにか満たされない気持ちでいた。




ふと、下を見ると、そこには何もない一面の平原が広がっていた。
かつてそこにはビル群があり何百万人もの人が生活をしていた。
今そこには何もない。
が、それが田中には自由に思えた。
それはちょうど空に憧れていた頃の心境だった。


救急車が田中の横を通り過ぎた。先ほどの事故で怪我人が出たらしい。


田中はふーっと息を吐くと
救急車のサイレンの音を背中に聞きながら飛行石を握る右手をゆっくりと開いた。