「おめでとうございます!あなたの論文が世界一権威のある賞の最優秀賞に選ばれました。」


研究者の田中は3ヶ月ほど前、ある論文を発表していたのだ。

「本当ですか?!わぁ夢じゃないか!間違いないのですか?」

「はい間違いございません。つきましては詳しい説明をさせていただきたいので、これからお宅へ伺ってもよろしいでしょうか?」


1時間ほどするときちっとした身なりの男が家に来た。

「先生、この度はおめでとうございます。
早速ですが受賞にあたっての説明をさせていただきます。
まずは懸賞金の1億円ですが、小切手でのお支払いになります。」

そうだ、この賞には1億円の懸賞金が付いていたのだ。
ソレを思い出すと田中はますます興奮した。

「ええ、もちろん小切手でもかまいません。」

「ありがとうございます。そこで、受賞にあたってのルールなのですが…」

そういうと男は冊子を取り出した。

「こちらに書いてありますように、この賞を受賞した事は口外してはいけないことになっています。と言うのも、この賞には多額の懸賞金が付いているからです。この賞は表向きには懸賞金は付いていない事になっていることはご存知ですよね?」

そう、この賞は表向きには懸賞金は無い事になっている。一部の専門家や研究者の間でだけに懸賞金の額が公開されているのだ。

「懸賞金は研究者の研究意欲をより一層引き出すためのものです。
もしも賞を受賞した事を一般に口外してしまうと、報道によって懸賞金の授受が明らかにされてしまう恐れがあります。そうなると、懸賞金欲しさにろくでもない論文を送ってくる連中が増え、厳正な審査ができなくなってしまうのです。」

「なるほど。」

「そこでお尋ねしますが、この賞を受賞した事を内密にする事を承諾していただけるでしょうか?」

「うむ…」

田中は少し考えたがソレを承諾した。

私は自分の研究が成し遂げられ、専門家によって認められた事だけで満足だと思った。

田中が承諾書にサインをすると男は帰っていった。



「私があの賞を受賞か…」


田中は満足げに呟いた。
好評はされないので世に自分の名前は出ない。
だが、私は満足だ。
1億円という大金も手に入る。
その金でまた新しい研究を始められるぞ!


…いや…しかし…
田中は考えた。
私は名誉になどに執着は無い。
…無いと思ってきたが…自分の功績が誰にも知られない…
それもさびしい気がする。

田中は考えると電話を取った。

「もしもし、田中ですが。先ほどの話ですがね、やはり承諾を取り消したいんです。」

「受賞を公表するのですね?そうなりますと1億円は受け取れなくなりますが?」

「かまいません。」





数日後、
賞の審査員の1人は「田中、賞受賞」の記事を読みながら思いにふけっていた。

「この賞は60年の歴史があるが、誰も1億円受け取っていない。
1億円…こんな大金をたった一枚の新聞記事で諦めてしまうのだから。
結局みんな名誉がほしいのだ。人に認められたいのだ。」

そう呟くと「人と名誉」と題された自分の論文のページに一行書き加えた。