今日から新しい生活が始まる。
新しい街、新しい会社、新しい仲間。
きっと楽しい日々が待っているのだろう。
田中は家を出た。
最寄の駅から電車に乗る。
会社までは電車で三十分ほどだ。
運よく座れた田中は一息つくと周りを見渡した。
なんと言うか、活気が無い車内。
もちろん朝の電車であるから、眠そうな顔をしたサラリーマンばかりであるのはなんら不思議な事ではないのだが…
元気が無いというか、気の抜けたような人達ばかりだ。
「何だ、この陰気な電車は。こっちは新しい生活でワクワクしてるってのに。毎日こんな感じなのかな…」
電車を降りた田中は気を取り直して会社へと向った。
澄み切った空気、さわやかな太陽、すがすがしい小鳥の声。
田中は意気揚々と歩いた。
会社までの10分程の道のり、
田中は何人ものサラリーマンを追い抜いた。
決して早歩きをしているわけではないのだが…
皆ゆっくり、うつむきかげんで歩いているのだ。
中には立ち止まってため息をついている者もいる。
「今日は月曜だから特別に気乗りがしないのかな…」
会社に着くと係の者に連れられて自分の部署へ行き、部長に挨拶をした。そして自分のデスクにつくと周りの同僚に簡単に自己紹介をした。
係の人、部長、同僚。
どれをとっても活気が無い…
暗く、生気を感じない…
一体なんなのだ。
電車から感じていた事だった。
この街はなんなんだ。
全く生気を感じない…
俺は今新しい生活を向かえ、こんなにもやる気と希望に満ちているというのに。
こんな空気ではこちらまで消沈してしまうではないか…
その時だ。
隣に座っていた同僚が目の前の自分のデスクにドンッと頭を突くとつぶやくように言った。
「死にたい…」
するとどうだ、ソレが合図だったかのように周りの同僚が次々につぶやきだした。
「死にたい…死にたい…」
気がつくと田中を除く全ての社員が同じように頭をデスクに打ちつけながら「死にたい」と何度もつぶやいている。
「いったい…なんなんだ!?」
田中は底知れぬ恐怖を感じた。
今までにこのような状況に出くわしたことなどない。
「死にたい…死にたい…!」
田中はたまらなくなって立ち上がると部屋を飛び出した。
廊下に出ると…
「死にたい」という声はより一層大きく聞こえた。
下の階の人々も同じ事をつぶやいているようだ…
田中は両手で耳をふさぐと夢中で階段を駆け上がった。
階段を登りきり、屋上の扉を開ける。
太陽の光と共に田中の耳に届いたのは…
「死にたい…死にたい…」
街、全体…街全体がそうつぶやいているのだ…
「なんだんだ!?この街はどうなっているのだ!?」
端っこにある手すりまで駆け寄ると、下を見下ろしながら田中は叫んだ。
その時。
田中は思い出した。
死にたい…?
そうだ。
俺は、死んだのだ。
俺は屋上から飛び降りて死んだのだ。
全ての事が嫌になって死んだ…
死んだはず…
なぜ、こうして生きているのだ…?
田中が困惑していると…
屋上の隅から一人の老人が歩いてきた。
「俺は…俺は…ココはどこなんだ?」
田中にはその老人が全てを知っているように思えた。
老人は答えた。
「ココは天国だよ。」
「天国?!」
「そう、天国。
まぁ人によっては地獄とも言えるか…」
老人はゆっくりとした口調で話した。
「人は死ぬと自分と同じ人間がいる世界に行くのだ。
心の優しい人間は心の優しい人ばかりが生活する街にゆく。
逆に乱暴な人間は乱暴なものばかり集まった世界にゆくのだ。」
「自分と同じ人間…」
「そうだ。この街を見ろ。お前がたくさんいるぞ。
皆絶望し、死ぬ事ばかりを考えている。」
そう言うと老人はゆっくりと立ち去った。
田中は呆然とたちつくした。
街からは絶望の声が響き続けている…
涙が出てくる。
とめどもなく、涙が出てくる。
「俺は…俺は…」
涙が止まらない…
「田中さん!」
その声で田中は目を覚ました。
見るとそこには医者や看護師が…
「気がつかれましたか!ココは病院です。あなたはビルから落ちたのです。運よく木がクッションになったおかげで足の骨折と打撲だけですんだのです。」
意識がもうろうとしている。
ふと、横のベッドを見ると小さな子供が苦しそうにしている。そばにいる両親はしっかりと子供の手を握りしめ祈るようにしている。
医者が言う。
「田中さん!あなたは自ら命を絶とうとしたのです!
もうこんな事は二度としないと、もう二度と死のうなんて考えないと、私に約束してください!」
田中はゆっくりと目線を医者に向けると
なにか決心したかのように深くうなずいた。
新しい街、新しい会社、新しい仲間。
きっと楽しい日々が待っているのだろう。
田中は家を出た。
最寄の駅から電車に乗る。
会社までは電車で三十分ほどだ。
運よく座れた田中は一息つくと周りを見渡した。
なんと言うか、活気が無い車内。
もちろん朝の電車であるから、眠そうな顔をしたサラリーマンばかりであるのはなんら不思議な事ではないのだが…
元気が無いというか、気の抜けたような人達ばかりだ。
「何だ、この陰気な電車は。こっちは新しい生活でワクワクしてるってのに。毎日こんな感じなのかな…」
電車を降りた田中は気を取り直して会社へと向った。
澄み切った空気、さわやかな太陽、すがすがしい小鳥の声。
田中は意気揚々と歩いた。
会社までの10分程の道のり、
田中は何人ものサラリーマンを追い抜いた。
決して早歩きをしているわけではないのだが…
皆ゆっくり、うつむきかげんで歩いているのだ。
中には立ち止まってため息をついている者もいる。
「今日は月曜だから特別に気乗りがしないのかな…」
会社に着くと係の者に連れられて自分の部署へ行き、部長に挨拶をした。そして自分のデスクにつくと周りの同僚に簡単に自己紹介をした。
係の人、部長、同僚。
どれをとっても活気が無い…
暗く、生気を感じない…
一体なんなのだ。
電車から感じていた事だった。
この街はなんなんだ。
全く生気を感じない…
俺は今新しい生活を向かえ、こんなにもやる気と希望に満ちているというのに。
こんな空気ではこちらまで消沈してしまうではないか…
その時だ。
隣に座っていた同僚が目の前の自分のデスクにドンッと頭を突くとつぶやくように言った。
「死にたい…」
するとどうだ、ソレが合図だったかのように周りの同僚が次々につぶやきだした。
「死にたい…死にたい…」
気がつくと田中を除く全ての社員が同じように頭をデスクに打ちつけながら「死にたい」と何度もつぶやいている。
「いったい…なんなんだ!?」
田中は底知れぬ恐怖を感じた。
今までにこのような状況に出くわしたことなどない。
「死にたい…死にたい…!」
田中はたまらなくなって立ち上がると部屋を飛び出した。
廊下に出ると…
「死にたい」という声はより一層大きく聞こえた。
下の階の人々も同じ事をつぶやいているようだ…
田中は両手で耳をふさぐと夢中で階段を駆け上がった。
階段を登りきり、屋上の扉を開ける。
太陽の光と共に田中の耳に届いたのは…
「死にたい…死にたい…」
街、全体…街全体がそうつぶやいているのだ…
「なんだんだ!?この街はどうなっているのだ!?」
端っこにある手すりまで駆け寄ると、下を見下ろしながら田中は叫んだ。
その時。
田中は思い出した。
死にたい…?
そうだ。
俺は、死んだのだ。
俺は屋上から飛び降りて死んだのだ。
全ての事が嫌になって死んだ…
死んだはず…
なぜ、こうして生きているのだ…?
田中が困惑していると…
屋上の隅から一人の老人が歩いてきた。
「俺は…俺は…ココはどこなんだ?」
田中にはその老人が全てを知っているように思えた。
老人は答えた。
「ココは天国だよ。」
「天国?!」
「そう、天国。
まぁ人によっては地獄とも言えるか…」
老人はゆっくりとした口調で話した。
「人は死ぬと自分と同じ人間がいる世界に行くのだ。
心の優しい人間は心の優しい人ばかりが生活する街にゆく。
逆に乱暴な人間は乱暴なものばかり集まった世界にゆくのだ。」
「自分と同じ人間…」
「そうだ。この街を見ろ。お前がたくさんいるぞ。
皆絶望し、死ぬ事ばかりを考えている。」
そう言うと老人はゆっくりと立ち去った。
田中は呆然とたちつくした。
街からは絶望の声が響き続けている…
涙が出てくる。
とめどもなく、涙が出てくる。
「俺は…俺は…」
涙が止まらない…
「田中さん!」
その声で田中は目を覚ました。
見るとそこには医者や看護師が…
「気がつかれましたか!ココは病院です。あなたはビルから落ちたのです。運よく木がクッションになったおかげで足の骨折と打撲だけですんだのです。」
意識がもうろうとしている。
ふと、横のベッドを見ると小さな子供が苦しそうにしている。そばにいる両親はしっかりと子供の手を握りしめ祈るようにしている。
医者が言う。
「田中さん!あなたは自ら命を絶とうとしたのです!
もうこんな事は二度としないと、もう二度と死のうなんて考えないと、私に約束してください!」
田中はゆっくりと目線を医者に向けると
なにか決心したかのように深くうなずいた。