ある日の事、自宅でのんびりしている田中の家に一本の電話がかかってきた。

「はい、田中ですが。」

「もしもし、田中さん。実は、あなたにチョットお話が。」

「セールスだな。切るぞ。」

「いえいえ、セールスではありません。実はあたし、見たんですよ。」

「え?」


電話の女は妙な含みをもった言い方をした。

「見ていたって、何を?」

「見てしまったんですよ。」

「一体何のことだ?悪ふざけに付き合っている時間は無い。」

「そうですか。あなたがお聞きにならないのならこの事はあなたの周囲の人にお話することにします。」

「なに?!」

この女は何を言っているのだろう?
何を見たというのだろう?
いたずらだろうか…?


…いや、まてよ。


田中は一昨日浮気相手と会っていた事を思い出した。
ははーん。この女、ソレをネタにゆすろうというのだな。
もしもこの事が妻にバレたら…
妻との間にはには来年子供が生まれるのだ…
絶対にバレる訳にはいかない。


「なるほど、わかった。見たのか。で、いくら欲しいんだ?」

「10万円でどうでしょう?」

「10万か…高いな。」

「あなたを救って差し上げるのです。正当な報酬でしょう?」

「正当な報酬ね…よし、わかった。払おうじゃないか。
いつ、どこで払えばいい?」

「今日の午後5時に公園に来てください。」

「よし、わかった。」


ついてない。
田中は思った。
田中も不倫をよい事と割り切っていたわけではなかった。
来年生まれてくる妻と自分の子供の為に浮気相手との関係は打ち切ろうと決意し、一昨日は最後の密会だったのだ。
よりによって最後を目撃されるとは…
午後五時になり指定された公園へ行くと、そこには老婆が立っていた。
田中はこんな老婆が恐喝などするものなのだなと少し驚いた。

そこで田中はあることに気がついた。


こんな老婆が夜のホテル街にいるだろうか?
本当に自分達を目撃したのだろうか?


さては…
このババア、浮気現場を目撃したってのは全部でっち上げだな!?
そもそもこいつは「見た」と言っただけで何を見たかは言っていない。人は「見た」と言われれば心当たりの一つや二つあるものだ。こいつはそこにつけ込んだというわけだ。新手の詐欺に違いない!
危うく騙されるところだ!


「田中さん、来てくれましたね。早速お話しましょう。」

「残念だったな!金は払わんぞ!!まんまと騙されるところだ。」

「なにを言ってるのですか?」

「もういい、分かってるんだ!!本当は何も見て無いんだろ!?」

「見ました。」

「じゃあいつだ?!いつ見たのだ?!言ってみろ!!」

「昨晩です。」

「ははは!!昨晩だと!?昨日は一日中家にいたよ!!
馬鹿にすんじゃねぇ!!」

そういうと田中は老婆を突き飛ばした。
老婆は力なく倒れた。

「ざまあみろ!!」

そう捨て台詞を残すと、田中は公園を後にした。




「全くふざけやがって。この俺を騙そうとするなん…」

道を歩く田中の背中に突然激痛が走った。
振り向くと浮気相手だった女がナイフで田中の背中を刺しているではないか。
「よくも私を散々もてあそんでおいてアッサリ捨ててくれたわね!!」
女は背中からナイフを抜くと、何度も何度も刺した。





田中は死んだ。





起き上がり服についた砂を払いながら老婆は呟く。

「私の夢占いは100発100注。
10万円で命が助かるなんで安いもんなのに。
結局、田中さんの最期は昨晩私が見た通りになってしまったわね…」