田中の前には大きな壁が立ちはだかっていた。
田中には自分の力では越える事ができないように思えた。
「やっぱりあきらめよう」
あきらめて引き下がろうとすると田中のふた周りは年上であろう初老の男に声をかけられた。
「この壁を越えないとお前のしたいことは何もできないぞ。」
男は言った。
「それは分かっているのだが、やっぱり俺には無理そうだ。」
田中は答えた。
「私も何度となく壁にぶつかったよ。そしてその度に逃げ、立ち向かおうとしなかった。いまの私が君にはどう見える?成功して優雅な人生を送っているように見えるかね?」
男はそう言うと田中の肩をぽんと叩いた。
「逃げてばかりいては前に進めないか。」
田中はつぶやくように言った。
そして決意したように空を仰ぐと夢中で目の前の大きな壁に上りだした。やはりこの壁は大きすぎる。上ってはずり落ち、上ってはまたずり落ちた。手足は擦れ血がにじみ出てきた。だがいままでこんなに必至に何かに取り組んだ事があっただろうか?
田中はすがすがしい気分にさえなった。
パンという大きな音と同時に田中の挑戦は終わった。
銃で撃たれたのだ。
刑務官がかけよる。
「全く、真昼間から脱走とは、何てヤツだ。」