
【問題】
警察官Aが、被疑者甲を逮捕しようとし、相当な嫌疑等に基づいて出された適式の逮捕状を甲に呈示したところ、甲は令状の一部が読みにくく、しかも逮捕されるようなことは全く思いつかなかったので、Aに暴行を加えて抵抗した。
甲の罪責について述べよ。
【解答案】
1 甲は公務員たる警察官Aが令状逮捕という職務を遂行する際に、Aに対して暴行し、公務を妨害した。したがって、甲には公務執行妨害罪(刑法95条1項)の成否が検討される。
2(1) 公務執行妨害罪においては書かれざる構成要件要素として、「職務の適法性」が必要とされている。
その内容は、
①職務の執行が当該公務員の抽象的職務権限に属すること、
②当該公務員が当該職務を行う具体的職務権限を有すること、
③当該職務の執行が公務員としての有効要件である法律上の手続・方式の重要部分を履践していること、
が挙げられる。
そして、この職務の適法性は、行為者の人権保障と公務の保護の調和の見地から,裁判官が行為時を基準に法令等を客観的に解釈して判断する。
(2) 本問のAには刑事訴訟法199条1項により、司法警察職員として令状により逮捕する一般的職務権限があり、現に適式に発付された逮捕状を持参しており、具体的職務権限の存在にも問題はない。
本件逮捕状は、その一部が読みにくくなっているが、氏名や被疑事実の要旨等が全く読めないというものではなく、刑事訴訟法200条が定める逮捕状の方式を損なうものではない。
また、Aは適式に発布された逮捕状を呈示して(刑事訴訟法201条1項)、本件令状逮捕を行っており、Aの当該逮捕行為は適法な職務である。
以上により、甲の本件暴行は公務執行妨害罪の構成要件のうち、その客観面を完全に充足している。
3 もっとも、甲は逮捕されるようなことは全く思いつかなかったので、Aの逮捕行為が違法なものであると誤信している。この誤信が甲の罪責に影響するか。
甲はAの職務行為が違法なものであると認識していた以上、書かれざる構成要件要素としての「職務の適法性」を認識しておらず、甲に公務執行妨害罪の故意は認められない。それゆえ、甲には公務執行妨害罪は成立しない。
(なお、公務執行妨害罪不成立の場合に、独自に暴行罪(刑法208条)あるいは脅迫罪(刑法222条)の成立は認められない。)
4 以上より、甲には公務執行妨害罪(刑法95条1項)は成立せず、不可罰である。
以上
※実際の事件では少なくとも暴行罪、あるいは公務執行妨害罪に無理矢理するのであろう。普通の検察官であれば(笑)
<参考条文>
【刑法95条1項】
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役又は禁錮に処する。
【刑法208条】
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
【刑法222条1項】
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
【刑事訴訟法199条1項】
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
【刑事訴訟法200条1項】
逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
【刑事訴訟法201条1項】
逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない