ボンダイビーチのフラット(シェアハウス)の住人にトーラという香港人の女性が居た。
彼女は留学でオーストラリアに来ていてアヌワーのいうパキスタン人の彼氏が居た。
オーストラリアで自動車の運転免許を取得してから、運転の練習の為にアヌワーから車を借りていた。
実は運転免許を取得するちょっと前からトーラにはもう一人彼氏が出来ていた。
同じボンダイビーチに住むパキスタン人で、名前はアヌワーだった。(めんどくさい)
携帯電話の無い時代だった為、シェアハウスにある固定電話が唯一の連絡手段だった。
トーラ宛にその二人から頻繁に電話が掛かってきた。
二人共「アヌワーだけどトーラ居る?」って電話をして来ていた。
車を借りて暫くしてからトーラが「アヌワーから電話が掛かって来たら居ないって言って」と言われた。
「どっちのアヌワー?」って聞いたら「ボンダイアヌワーはオッケーだけど、アヌワー(ノーマル)はダメ」と答えた。
とりあえずめんどくさい。
ノーマルアヌワーは少し自信なく話すタイプで、ボンダイアヌワーは割と自信満々で話すので、電話口でどっちのアヌワーかは判断出来た。
それでも、電話が掛かって来る度に電話の側でジェスチャーしながら「どっち?」とたずねるトーラもちょっと鬱陶しかった。
とにかくノーマルアヌワーからの電話にはトーラは出なかった。
ある日、トーラが借りて来た車にガソリンを入れたいと言うので、来るの運転をしたかった僕は、「それなら僕が入れて来るよ」と言って、車の鍵を借りてガソリンを入れに行く事にした。
オーストラリアには古い日本車が現役で走っていて、トーラが借りていた車は1970年代のトヨタのコロナだった。
古い車なので、一発でエンジンが掛からなくてチョークを引いたりしてようやくエンジンが掛かった時にバックミラーを見て驚いた。
ノーマルアヌワーの蒼白い顔がミラーに映っていたのだ。
居留守ばかりで連絡が取れないノーマルアヌワーが、自分の車でトーラを待ち伏せていたのだ。
ノーマルアヌワーは「サトシ、君はどうして僕の車を運転しようおしてるの?」と聞いてきた。
僕は「トーラが車にガソリンを入れるように頼まれたからだよ」と答えた。
ノーマルアヌワーは「とりあえずサトシが運転してガソリンを入れよう」言ったので車を走らせた。
道中、ノーマルアヌワーが「どうしてトーラはいつも居ないんだ?」と聞いて来たので「電話して来る時はトーラが何故か居ないんだ」と僕はトーラを擁護した。
ガソリンを入れ終えてからシェアハウスに戻ろうとしたら、ノーマルアヌワーが「もう少し話をしたい」と言ってそのままドライブする事になった。
ノーマルアヌワーがしつこく「どうして皆んなトーラが居るのに居ないって言うんだ⁈」と聞くばかりするから「トーラが居ないって言えって言うから、皆んな居ないって言ってんだよ!」とキレてしまった。
つづく