令和6(2024)年1月17日(水曜日)

 

 寒い日が続いていますが、いかがお過ごしですか?

 

 さて、わたしは先週の土曜日(1月13日)に国立西洋美術館で1月28日まで開催中の「キュビスム展 美の革命」に行ってきました。

 

 

 

 

 キュビスムというと「ピカソやブラックのよくわからないアレ」程度の知識しかありませんでした。

 

 

 「よくわからないアレ」の一例↑・・・後でもう一度紹介しますが・・・この絵、何が描かれているのかわかりますか?

 

 

 で、キュビスムという言葉自体には一義的で明確な定義はないようですね。

 

 図録の解説によると・・・

 「一般的には、キュビスムは次のようなものだと説明されている。二次元の絵画平面上に三次元の空間や立体があるかのように見せる遠近法や陰影法と言った西洋絵画の伝統的イリュージョニズムの技法を捨て、複数の視点を用いたり、幾何学的形態に単純化された図形によってグリッド(格子)状に画面を構成することで、描かれる対象を再現的、模倣的、写実的に描写する役割から絵画を解放し、より自律的な絵画を作り出した美術運動である、と。」(本展図録16頁 田中正之「キュビスムを理解するために ― いくつかの視点」)。

 

 キュビスムとは何かについて、この説明で言い尽くされているようにも思いますが・・・ピカソ、ブラックらを筆頭に、実際に作品を見ることで、キュビスムの画家達が、「細かく区切られた色の面」で強固な画面を構成するセザンヌの表現方法を極限まで試みたり、あるいは、古代ギリシャやルネッサンスの大家の作品ではなく、アフリカや南洋諸島の文明が生み出した素朴な力強さを新たな美の規範とすることで「描かれる対象を再現的、模倣的、写実的に描写する役割から絵画を解放し、より自律的な絵画を作り出した」のだ、ということがよくわかりました。

 

 

 特に感動したのはブラックがセザンヌの技法を自分のものにするために何枚も実験を繰り返した、その作品を見ることができたこと・・・

 

 

ジョルジュ・ブラック「レスタックの高架橋」(1908年初頭) 72.5×59cm

 

 

 

ジョルジュ・ブラック「楽器」(1908年秋) 50.2×61cm

 

 

 

ジョルジュ・ブラック「ギターを持つ女性」(1913年秋) 130×73cm

 

 

 「ギターを持つ女性」のような不思議な絵は突然湧いて出たのではなくて、「レスタックの高架橋」や「楽器」に見ることができるセザンヌの描法の地道な研究を経て生まれてきたのだ、という・・・ブラックの工夫や実験の跡を見ることができたのは収穫でした。

 

 

 ピカソについても「セザンヌに私淑していたんだなぁ!」と、その情熱というか息吹を感じることができますね。

 

 

パブロ・ピカソ「女性の胸像」(1909年冬~1910) 73×60cm

 

 

 

パブロ・ピカソ「肘掛け椅子に座る女性」(1910年) 100×73cm

 

 

 

 でも、ここまで行っちゃうと↓もはやわけがわかりません・・・本稿の冒頭で示した「よくわからないアレ」のタイトルは「少女の頭部」だそうです爆  笑

 

 

パブロ・ピカソ「少女の頭部」(1913年初頭) 55×38cm

 

 この絵を見て、芭蕉が幽霊を詠んだこんな俳句を思い出しました。

 

 稲づまやかほのところが薄の穂

 (稲妻や顔のところがすすきの穂)

 

 なんだか気持の悪い絵だと思います。

 

 

 さて・・・

 ピカソとブラックによるキュビスムの共同実験は期間にすれば1908年から1914年に至る6年ほどだったそうですが、キュビズムの運動を発展させた他の画家たちの作品にも心を惹かれました。

 

 

 

ロベール・ドローネー「パリ市」(1910~1912) 267×406cm

 

 ギリシャ・ローマ神話に由来する三美神と文明の象徴であるエッフェル塔が並び立つ、新しいスタイルの神話画、パリ市賛歌とでも言うべき作品・・・20世紀初頭にこの絵を見た人たちは新時代の幕開けを感じたでしょうね。彩りもとても綺麗です。

 

 

 

アルベール・グレーズ「収穫物の脱穀」(1912) 269×353cm

 

 ブリューゲルの作品をキュビスムの方法で描いたような作品。

 このような群像図は多数の人々や多種多様なモノが描き込まれる性格上、細かな色面で画面を区切るキュビスムの技法に向いているのではないかと思います。

 

 

 

ジャック・ヴィヨン「行進する兵士たち」(1913) 65×92cm

 

 画面右奥に向かい銃を担って行進する兵士たち。キャンバスを斜めに区切る線に躍動感があります。画面を彩る淡い赤、青、そして白はフランス国旗を象徴しているのでしょうか。

 

 

 

フランティシェク・クプカ「色面の構成」(1910~1911) 109×99.5cm

 

 作者はチェコの人

 女性の優雅な動きを夕映えのような色面の連続で表現した作品。私のお気に入り。

 

 

 以上のほかにも、シャガール、モディリアーニ、ブランクーシの作品など、古い時代の様式の縛りから解き放たれて自由に創作のつばさを広げた作品を数多く鑑賞できました。

 なるほど、ピカソやブラックがキュビスムの実践によってひらいた突破口の向こうにこんなにも豊かな世界が現れたのかと・・・キュビスムの運動が20世紀の美術革命であったことがよく理解できた展覧会でした。