雨と、沈黙のサイコンと、去りゆく背中


◼️軽快なペダリング、嵐の前のララサンシャイン♪

 5月3日、京都府舞鶴市の宿を朝5時にスタート。目指すは310km先の広島県福山市の宿。

 予報では10時から雨。少しでも距離を稼ぎたい一心でペダルを回します。

 脳内BGMは森高千里さんの「ララ サンシャイン」。

「今日も頑張ろう♪」と自分を奮い立たせますが、願いも虚しく空からは無情の「雨」。

「雨は冷たいけど…♪」なんて言っていられないほど、顔は雨と汗と鼻水でグチャグチャに。

 それでも足は軽く、「これなら明るいうちにフォトチェックである『宇野のチヌ&コチヌ』を撮れる!」と心弾ませていたのも束の間。

 ここから悲劇が牙を剥きます。


◼️静かに忍び寄る浸水、そして不意に訪れたパンクの罠


 雨に煙る姫路城を横目に、必死にペダルを回していたあの時、まだサドルバッグ内へ雨が浸水していることに気づいていませんでした。

 使い古しのジップロックの隙間から雨が入り、モバイルバッテリー、電動の空気入れ、USBコンセントが全滅。

 さらに、フォトチェック直前のトンネルでパンク。


 浸水で壊れた電動の空気入れは沈黙。手動ポンプで格闘するも、交換したチューブが膨らみません。

 チューブには穴が空いています。

 暗闇が迫る中、ようやくタイヤに刺さった鋭利な異物を見つけました。気を取り直し、最後のチューブを使い、修理を始めるも雨で手はかじかみ、苦戦。

 ようやくパンク修理が終わり出発しようとしたとき…。



◼️壊れたサイコンと届かない声。雨の夜に味わった、底知れぬ孤独

 追い打ちをかけるように、サイコンが電源のON/OFFを繰り返すだけの文鎮と化しました。

 「もう、ダメだ…。」

 地面に座り込み、心が完全に折れたその時。

 トンネルの出口からUさんがやってくるのが見えました。

 「おーい!」

 声を振り絞りましたが、雨音と下り坂のスピードにかき消されます。

 暗闇と死角、そして無情の雨。

 私の存在に気づくことなく、Uさんのリアライトが遠ざかり、闇に消えていく。

 あの瞬間の孤独感は、今思い出しても胸が締め付けられます。


◼️絶望からのリスタート

 停止から既に2時間が経過。

 UさんにDNFをすると連絡を入れ、帰り方を調べていたその時。

 奇跡的にサイコンが息を吹き返しました。

 「まだ…終われない。」


◼️暗闇の「宇野のチヌ&コチヌ」、そして転倒


 本来なら瀬戸内の潮風を感じながら明るい時間に撮るはずだった、フォトチェックのオブジェ「宇野のチヌ&コチヌ」。

 たどり着いたのは、予定を大幅に過ぎた真っ暗闇の中でした。

 雨が激しく、スマートフォンのカメラはうまくピントを合わせてくれない。

 「もっと離れないと全体が映らないか」と、画面越しにオブジェを確認しながら後退したその時、暗闇に紛れた約30cmの段差に気づかず、そのまま転倒。

 幸い怪我はなく、ボロボロになりながら、広島県福山市の宿に辿り着いたのは深夜2時でした。

 十分な睡眠時間は確保できないけれど、魂はまだ折れていません。

 行けるところまで、走り続けます。