絶望の淵で見つけた、真の完走の意味
◼️暗闇の佐賀関港、突きつけられた絶望
「…えっ、嘘やろ」
サイコンの挙動がおかしい。何度試しても衛星を拾わず、昨日と同じON/OFF を繰り返す無慈悲なループ。
真っ暗な港で、私の足が止まりました。
コースも速度もわからない。1000kmという旅の終盤で突きつけられた、あまりにも残酷な現実。
「もうここまでか…。」と膝をつきそうになりました。
◼️救いの手と、心に染みた別府の温もり
周りを見渡すと、まだ3人のブルベライダーが残っている。
ダメもとで2人組の若者に声をかけました。
「サイコンが故障してしまいました。ご迷惑でなければ、付いて行けるところまで、後ろを走らせてもらえませんか?」
2人は顔を見合わせ、明るく答えてくれました。
「良いですよ!ただ、僕ら寄り道もするし、休憩も長めに取りますけど大丈夫ですか?」
「もちろんです、ありがとうございます!」
大阪と岡山から参戦している20代の2人。親子ほど歳の離れた私に、彼らは気を遣って何度も話しかけてくれました。
一つの目的に向かって夜の闇を駆ける、言葉を超えた同志の絆。
案内してくれた別府駅前の「手湯」に手を入れた瞬間、じんわりと広がる温かさ。この過酷な旅路で、初めて心が解き放たれた瞬間でした。
◼️究極の選択 — 装備か?絆か?
予約していた別府の宿が刻一刻と近づきます。
そこには、数日前に自分が発送しておいた「確実な備え」が待っていました。
予備のチューブ、エネルギー源となる補給食、そして1000kmのフィナーレを最高の状態で迎えるためのサイクルウェア。
「一度宿に入れば、態勢を立て直せる。サイコンだって、充電しながら再起動すれば奇跡的に直るかもしれない…。」
しかし、宿に立ち寄れば、今私を導いてくれているこの若者たちとはお別れです。
サイコンが死んでいる今の私にとって、彼らの背中を見失うことは、漆黒の闇に取り残されることを意味していました。
宿で態勢を整えるべきか、迷いを断ち切るための理由を探して、祈るような気持ちでUさんから届いたLINEを開きました。
「今、最終便のフェリーに乗船した」
その文字を見た瞬間、計算が頭を駆け巡ります。
Uさんもかなりギリギリの戦いをしている。Uさんに先導してもらうことを期待して、ここに到着するのを待っていては、制限時間に合わないかもしれない。
「頼れるのは、今、目の前にいる彼らしかいない」
宿に預けた荷物よりも、サイコンの復旧という淡い期待よりも、今ここにある「人の繋がり」に賭けてみよう。
「よし、この若者たちの背中を信じて、このまま突き進もう!」
宿の入り口を横目に、私はペダルを強く踏み込みました。
しかし、20代の走力と体力は凄まじいものでした。
夜通し走り続け、空が白み始めても彼らのペースは衰えません。
いったい何時間寝ていないだろうか。意識が朦朧とする中で迎えた、このブルベ最大の登り。
とうとう、力が尽きました。
足が動かない。
「もう登れない…」
彼らの足を引っ張るわけにはいかない。
最後は自転車を降り、押し歩きを選択しました。
「ここまで引いてくれて、本当にありがとう。先に行ってください」
背中を見送りながら、自分に言い聞かせました。
「ゴールできなくても、十分頑張った。胸を張って帰ろう」と…。
◼️新たな出会いと、背中を押す言葉
押し歩きで峠の頂上に辿り着き、長い下り坂の途中で、ひとりのブルベライダーの姿が見えました。
「まだ、終わらせたくない…。」
再び声をかけました。
神奈川から参戦している20代のHさん。
彼は「一緒に走りましょう!」と快く、私のペースに合わせて走ってくれました。
話を聞いていると、ご兄弟で走っていたところ、弟さんがメカトラと体調不良で無念のDNF(リタイア)を喫したとのことでした。
「散々なブルベだと思っていたけれど、これほど助けられたブルベは初めてだ。」
その後、休憩していたコンビニで主催者のAJ福岡のスタッフの方に声をかけられました。
「トラブルはないですか?大丈夫ですか?」
「サイコンが故障して、今、彼に引いてもらっているんです!」
私たちが先にコンビニを出て走っていると、スタッフの方が追い抜きざまに叫びました。
「ブルベっていいね!」
◼️73時間08分の涙、辿り着いた答え
その言葉が、心に火を灯してくれました。
ゴールまであと30km、20km、10km…。
自分のサイコンが復活したように、何度も残りの距離を教えてくれるHさん。
あと3km、2km、そして1km。
とうとう見えた、ゴールの光。
【ゴールタイム:73時間08分】
完走の瞬間、自然と目から涙が溢れました。それは身体の辛さからでも、達成感からでもありません。
ただただ、人の優しさ、温かさに触れたから…。
一人では絶対に辿り着けなかったゴール。
助けてくれた皆さん、励ましてくれた全ての人に、心の底から伝えたい
やっぱり、「ブルベっていいね!」
【完】









