向かい風と勘違いの狂騒曲


◼️消えたハイライト、忍び寄る向かい風。315km先の別府を目指して

 5月4日、ブルベ3日目。

本来なら、この旅のハイライトである「しまなみ海道」を堪能するはずの日。

 しかし、昨日の相次ぐトラブルで身体はボロボロ、疲労感はすでにピークに達していました。

 さらに追い打ちをかけるように「今日は猛烈な向かい風になる」という予報。

 朝4時15分、広島県福山市の宿をスタート。

 目指すは315km先、大分県別府市の宿。

 しかし、この先に待ち受ける展開を、この時の私はまだ知る由もありませんでした。


◼️不安解消、そして地獄の始まり

 Uさんとは今日も別々のスタート。 直後のPC(コンビニ)で、同じブルベを走る参加者の方と出会いました。

 昨日のパンクの話をしたところ、なんと電動空気入れを貸してくださることに!

 適正圧までキッチリ入ったタイヤの感触に。

 「これで一つ不安が消えた」と安堵し、尾道渡船を経て、いよいよしまなみ海道へ。




 しかし、そこにあったのは「絶景の楽園」ではなく「向かい風の地獄」でした。

 漕いでも、漕いでも、速度は上がらない。

 向こう側からは、追い風に乗って快適に飛ばしてくるサイクリストたち。

 「なんやこれ…こんなの憧れのしまなみ海道じゃない!」

 絶景を楽しむ余裕など微塵もなく、ただただ姿勢を低く構え、歯を食いしばってペダルを回し続けました。







◼️絶望の勘違いと、佐田岬の激走

 ようやく愛媛県今治市に辿り着いた時には、かなりの時間をロスしていました。

 焦りの原因は、愛媛・三崎港から大分・佐賀関へ渡る20:30発のフェリー予約。

 間に合わないと悟り、震える手でフェリー会社に電話を入れました。

 私「遅い便に変更したいのですが…。」

 担当者「今日は満席で変更はできません。」

 この一言が、パニック状態の私を負のループに突き落としました。

 実は「満席」なのは、私とUさんが予約していた「自転車をバラさずそのまま積める5台限定の枠」のこと。

 輪行袋に入れさえすれば、後の便にだって乗れたのです。

 しかし、勝手に「今日中に大分へ渡れない」=「リタイア(DNF)」と思い込んだ私は、Uさんや周囲の参加者に「今日は満席なのでキャンセル待ちをして空きがあれば乗船できる」という誤情報を拡散してしまいました。

 そこから、皆んなの盛り漕ぎが始まります。

 待ち構えていたのは、佐田岬半島の容赦ないアップダウン。

 「もう二度と来るか!」と心の中で叫びながら、暗闇を死に物狂いで駆け抜けていたその時、先行していたブルベ仲間のMさんから一通のDMが届きました。

 「電話で問い合わせしたところ、

徒歩(輪行袋いれる)は乗れますとの事。安心してください!」

 その文字を見た瞬間、張り詰めていた糸がふっと解けるような、とてつもない安心感に包まれました。

 「今日中に大分に行けない」=「DNF」という絶望が、一気に希望へと変わった瞬間でした。


◼️救世主、現る

 21時10分、三崎港到着。乗船締め切り直前です。

 大慌てで自転車を分解し、輪行袋に詰め込みましたが、係員さんからは「もう時間切れです、乗れません」と非情な宣告。

 万事休すか…。

 そう諦めかけたその時、隣にいた同じ状況のブルベライダーが、粘り強く交渉してくれたのです。

 その熱意が通じ、なんと奇跡的に乗船許可が!

 1時間10分の船旅。

 他の皆さんは束の間の仮眠を取っていましたが、私はあまりの興奮と安堵で一睡もできませんでした。




◼️悲劇は、上陸直後に

 22時45分、ようやく大分・佐賀関港に上陸。

 「さあ、あとは別府の宿へ向かうだけ」

 そう自分に言い聞かせ、輪行を解除し、自転車を組み立て直したその時。

 暗闇の港に、私の絶望した叫びが響くことになります…。