デジタルアートの行方 ~スケールフィギュアがいわゆる芸術にならない理由 続き~ | スーパーオニオン アートでリアルでユーモラスなフィギュア

スーパーオニオン アートでリアルでユーモラスなフィギュア

2013年より主に美少女フィギュアを制作していたが、コロナ禍を機に作風を見つめ直し、2023年からはオリジナル作品<動物と人間を題材にした、少しユーモラスで寓意的なリアル系フィギュア>を創作。SNS、デザフェスなどのイベントで発表中。

※デジタルアートと書いていますが、デジタルでしか出来ない現代アートのような表現のことではなく、デジタルイラストやデジタルスカルプトの話です。


以前、「スケールフィギュアがいわゆる芸術にならない理由」というブログ記事を書きましたが、その後、色々と気づいたことがあったので、書いておきます。

 

 

 


ブログ記事を読んでもらえれば分かりますが、デジタルで制作しているオリジナルのスケールフィギュアで芸術系のアートイベント審査に参加申請したところ、悉く落選。

理由はその建物のシンボルになるような高さ2m×幅1.6m×奥行1.6mの空間に見合うものが求められているのに、高さ20㎝くらいのスケールフィギュアを複数展示してもお話にならなかったのではないかと推測。
でも巨大なフィギュアを作るのは費用的にも場所的にも難しい。それなら油絵で具象画を練習して、大きな絵画とフィギュアを連動させて、何か作れないかというのが主な内容でした。


ですが、油絵でたった一本の直線を引くにも四苦八苦しているうちに落選した理由には大きさとは別の問題もあるのではないかと思い始めました。


【最低限の道具と人間のパフォーマンスだけの表現は時代を超えて残り続ける】


以前のブログ記事でも触れたのですが、筆、キャンバス、絵具の最低限の道具のみで絵を描く行為をオリンピックの100m走に例えていたのですが、考えてみれば、運動と芸術の分野では単純な道具と人間のパフォーマンスのみで成り立つものは形を変えずに残っているものが多い印象です。

100mをどれだけ早く移動できるかを競うなら、自動車やバイクを使えばよいはずです。

細かく描きこまれ、様々な絵画手法を取り入れた美麗な絵ならクリップスタジオやフォトショップなどのソフトを使って、大きなプリンターで出力すればよいはずです。

人間が彫ったら20年以上掛かりそうな彫像もZBrushと3Dプリンターを使えば数カ月でできます。

リストのような超絶技巧を要するピアノ演奏もシーケンスソフトに細かく打ち込めば、細かいニュアンスまで自分が思った通りの演奏をミスなく再現できます。


ですが、相変わらずオリンピック競技は続けられ、絵画や立体の公募展は数多く開かれ、ピアノやバイオリンのコンクールも続いています。

もちろんそのほとんどがデジタル機器を使っての参加はNGです。(写真はカメラを使うので例外。デジタル版画という新しい表現方法が認められている公募展もあります。)


そういったことを考えるとおそらく自分の落選した原因はデジタルで作られたものということが大きな原因なんじゃないかと・・・。
もし自分がアナログ主体だったら、デジタル表現も表現手法の一環として受け取られていたかもしれませんが、3Dプリンターで出力したもののみだと印象はだいぶ変わると思います。


そういえば最近、eスポーツの番組をテレビでやっていたりしますが、囲碁や将棋もほとんど形が変わらずに残っていますよね。


最低限の道具と人間のパフォーマンスを追求する表現は、(人類が滅亡しない限り)この先もほとんど形を変えずに残っていくのではないでしょうか?




【「誰でも簡単に迅速に質の高いものを制作できる」が売り文句のデジタルソフト】


自分はフィギュアを制作する上でZBrushというソフトをペンタブレットで使用しています。
デジタルでフィギュア制作している人の大半が使っているほどメジャーなソフトです。

デジタルを使って制作しているほとんどの人が勘違いしているように自分もZBrushを使って作るものが自分の実力だと思っていました。

でも木材とのみや彫刻刀を渡されて、彫像を作ってみろと言われたら、ほとんど思うような形を作ることが出来ないと思います。

同じようにクリップスタジオやフォトショップのみでイラストを制作している人に筆とキャンバスと絵具を渡しても、ほとんどの人が線一本まともに引けないと思います。

クリップスタジオもZBrushもデジタルソフトの基本理念は「誰でも簡単に迅速に質の高いものが制作できる」ということをモットーにしていると思います。

筆で線1本引く技術も、のみで綺麗に木を彫る技術も習得する時間や労力も必要ありません。
画家や書家、彫刻家などが培ってきた技術を研究し、作品を解析し、線やタッチ、塗り方を模倣し、操作さえ覚えれば、誰でも再現できるようにしたのが、ZBrushやクリップスタジオなどのソフトだと思います。


もちろん自動車の運転のように操作の上手い人もいれば、下手な人もいます。
ですが、ある程度の操作さえ覚えれば、ほとんどの人が運転はできるようになります。

デジタルスカルプトもデジタルペイントもペンタブレットを使っているので、あたかも描いたり、彫ったりしているように感じてしまいますが、大半の技術を担っているのはソフトであり、
自分たちはマウスでポチポチ打っていた時と同じように座標とカラー情報をただ入力操作しているようなものなのかもしれません。



【デジタルはソフトが変われば、オペレーションをゼロから習得】


自分はmayaという3Dソフトもモデリングくらいなら使うことが出来ます。
でも同じポリゴンモデリングソフトの3dsMaxもBlenderも使うことができません。

現在、スカルプトで使用しているZBrushよりも覇権を取るような便利なソフトが出たら、すべてゼロから覚えなければなりません。

これはデジタルの宿命でソフトが変われば、多少共通する部分はあるもののオペレーションが変わって、今まで苦労して覚えた操作技術がゼロになります。

現在のハードはPCがメインですが、スマートグラスのようなハードに変わって、ソフトまで変わってしまえば、もしかすると自分はデジタル制作を諦めてしまうかも・・・。

いやデジタルの基本理念が「誰でも簡単に迅速に質の高いものが制作できる」である限りは、さらに簡単な操作でハイクオリティのモデルが誰でも作れるようになっていて、別に意識せずとも3Dモデリングが勝手に作れてしまう世界になっているのかもしれません。

昨今、著作権問題に絡めてAIイラストを規制すべきという声をデジタルイラストを描いている人中心に聞こえてきますが、ペンタブも必要なく、言葉だけで何枚ものイラストが出てくる、まさしく「誰でも簡単に迅速に質の高いものが制作できる」
というデジタルの基本理念そのままのようなオペレーションシステムが自分たちのやってきたことをすべてゼロにしてしまうという焦りが根底にはあるのではないかと思います。

現状の画像生成AIが規制されたとしても、新しいソフトは毎年のように出続け、(携帯からiphoneのように)ハードが変わった瞬間にオペレーションも今とはまるで違うものになっていくのでしょう。



【「アートっぽく」にならないように】

長くなりましたが、油彩、水彩、彫刻など昔から現代まで続いている古典的な表現はこの先も残り続ける確率が高い上に、デジタルのようにソフトやマシン性能にも左右されません。

もちろん技術を得るには時間も労力もかかる上に自分の素の実力と向き合わなければいけません。


自分でもあまりの下手さにいやになることが多々ありますし、デジタルと比べると見劣りするかもしれませんが、基本的な手法を勉強したり、身につけることで今まで全く考えもしなかったことに気付かされることはたくさんあります。

自分のブログの題名にもなっている「アートでリアルでユーモラスなフィギュア」が「アートっぽくてリアルでユーモラスなフィギュア」にならないように、まずはデジタルスケールフィギュアと油絵の組み合わせでアートイベントの審査に通用するのかということを念頭にまずは油絵を練習していこうと思っています。