この言葉は、私が25歳の時、顧客のシステム部門に居た方から聞いた言葉です。
今でも、私はこの言葉を信条にして、システム屋の仕事をしています。
よく「顧客の要望に応える」という言葉が、開発の現場で聞かれます。
「顧客の要望」とは何でしょう?
政府の機関や、非営利組織なら別でしょうが、一般の企業が顧客なら、それはズバリ、儲ける事、儲けを増やす事に他なりません。
忘れられてしまう、儲けるという大目的
では企業の目的は何でしょう。
そう、利益を生む事です。
それを知らないで、企業に従業員をやっている人はいないはずなのに、システム開発では、忘れられてしまう事が多くあります。
これが、「稼がないシステム」を量産する大きな理由になっています。
これは身の毛もよだつ恐ろしい話ですが、ある程度安定した運営が出来ている企業では、利益を生むという、企業の大目的が、日常の意識からすっかり抜け落ちている事があります。
要件定義のために、お客様からヒアリングをしていると、何やら、個人的なこだわりや、市場に対する持論から、色々な要求が出てくるわけですが、つい「それは、御社の利益に、あるいは、御社の顧客の利益に関係のある事ですか?」と聞いてしまいます。いえ、実際、多くの場合は聞きませんが。
利益を増やすためには、徹底的に業務改善すべきです。自説を展開するより、売場や顧客企業をまわり、リサーチに時間を割くべきです。
最も大事なの事は要件定義
要件定義と言えば、ウォータフォール開発で、無意味に時間を費やす、工数と時間を稼ぐツールという見られ方をしたりして、重要視されない事もある工程ではありますが、しかし、非常に大事な工程だと思います。
要求定義ではなく、「要件」定義なのは、顧客の要求をまとめるのではなく、成功のために必要な事柄、「要件」を洗い出すという意味があるからです。
要件とは、背景と目的です。そのシステムを作る理由です。これ無くして、システムは開発できません。
顧客は自身のビジネスを取り巻く様々な課題に向き合い、これを解決する事で、新たな利益を生む事が出来ないかを考えます。そして、その方法として、ITシステムの利用が相応しいかを検証する必要があります。
その大事な検証を行うのも、要件定義のうちであるにもかかわらず、システムを作る事が既に前提になっていて、請け負う方も、システムを作る方向にしか話を進めません。
「これは、システム化すべきではない」という結論も当然ありで、システム開発に要する費用とその効果が釣り合わない、つまり「少しも儲けにならない金食い虫」となるのが分かっているなら、システム化は止めるべきです。
そして、その検証ができるのは、システム化のプロである、開発会社であるはずなのです。
「システム屋の仕事は顧客を儲けさせる事である。」
という言葉は、私の顧客のシステム部門の方が、自社の第一回目の開発推進会議で言い放った言葉です。その会議には、社長も出席していました。
そしてその方が、この言葉の後に言ったのが、「これは、システム化すべきではない。」という言葉でした。
その後、何事も無かったように、システム開発はスタートし、3年の月日を費やし、数億円の費用をかけ、大失敗に終わりました。
中堅の保険会社であったその会社は、市場でのシェアを大きく失う事にになり、その数年後、大手保険会社に吸収合併されてしまいます。
この保険会社に居た、そのシステム部門の方は、退社してからしばらくは、私の師匠でしたが、やがて中東のとある国で起業し、政府機関のシステム化を専門で請け負うという仕事を長年やっておられました。
先年、引退されましたが、引退されるその日まで、「顧客を儲けさせる」ための要件定義を、自身でなさっていました。
今でも私の師匠です。
私は、こうした、素晴らしい先輩方に育ててもらいました。しかも、ほとんど会社員経験のない私に教えてくれた方々の多くは、顧客企業の方々でした。
だから、お客様は大事です。縁あって繋がっているのです。
私が学んだ事を、次世代の子どもたちや若者に伝えていく事が、私のミッションです。
私が教育分野にこだわる所以でもあります。