あれから一週間が過ぎても秀子からの電話は無かった。沙汰が無いのは良い知らせだと思おうとした。
「ママ、ほら見て!湖だよ。ヘイノラに入ったって!」
バスの外を見ると道路の脇にある丘に赤や黄色や紫とりどりの色でHEINOLAと描かれてあった。フィンランドで二番目に大きい湖のある地方の都市だ。バスは緩やかにカーブしながら高速道路からローカルの道路へと進んでいく。となりに座って外ばかりに見とれてうきうきしているエリカは嬉しそうだ。ヨーロッパの夏休みは長い。この国は80日程夏休みがある。日本のように夏休みの宿題は無い。もっぱら遊ぶのである。海外スペイン、アメリカ、マダガスカル、日本、トルコ子どもたちは8月に新学期が始まると旅行した話に盛り上がる。よかった と心の中で思った。今年は日本へは行けなかったがこの町で休暇を楽しんだ思い出をエリカに残して上げられる。
「ハロー、ヨウコさん。いらっしゃい。何にも特別なことは無いけど、ヘイノラを愉しんでネ」
ロズビータは化粧っけの無い人なつっこい顔で迎えてくれた。
「ハイ、ヨウコさんゲンキデスカ?」
ヨルマが少し話せる日本語で挨拶をする。ロズビータとヨルマの子どもたちはもう10代後半二人ともこの家にはいない。一人は大学の為ヘルシンキに住んでいる。もう一人の女の子は今フランスのディズニーランドで夏のアルバイトをして働いている。
『エリカ何年生になった?学校おもしろい?」
「うん、今5年生よ。学校はまあまあ」
ロズビータとエリカがフィンランド語で話している。
「エリカ、後で釣堀に連れてってあげるよ。サケが釣れるの。」
「ワー、絶対行きたい。」
ヨルマはヘルシンキ大学に長く留年していた。なかなか卒業できなかった。中年になってから再び大学を続けたが、体も弱く何しろ何事もゆっくりな性格で、決して急ぐことはしなった。ヘイノラからヘルシンキに通うのは大変だった。ヨルマは2年半の間私たちの家に寄宿していた。家賃はただにした。時々こうしてヨルマとロズビータの家に家族で休暇を愉しみに行くのが家賃の換わりだ。
美味しい自家製のベリーのジャムを付けたマッシュポテトと豚肉のステーキがメインディッシュの夕飯を美味しくいただいた。彼らの家は借家で一戸建て地下一階地上二階立て地下にはサウナがある。私とロズビータ、エリカは熱く蒸気の立ち込めるサウナでおしゃべりを愉しんだ。 アー、パパは今頃どうしているかしら? 主人はきっと忙しく仕事をし今頃誰もいない我が家で羽を伸ばしているに違いない。


人名地名はフィクションです。