耳元で声がする。
そうだ。
前の日にスキルス胃がんの手術を受け、胸の真下からへその上まで開き、胃の4分の3を切り取り腸と繋げ、脂肪が少なくてすい臓と胃が密着していたことからすい臓の表面を削り取り、胃の外側に出た目に見えるがん細胞は取っておきましたと執刀医Sに言われた手術が終わった翌日彼女はやって来た。
「そうですね、痛いですよね?」
リハビリ室のWさん。細身で長身、メガネをかけた優しげな雰囲気。涙もろい。
「ところで起きられますか?」
えと?なんておっしゃいました?
腹の中は切られた臓器が悲鳴をあげ、背中に繋げられた管からはおためごかしの痛み止め(痛かったらボタンを押せば適量の薬が注入されると言う触れ込み)が何度も入れられるが、痛みは増えこそすれ引く様子は見られない。
そんなわたしにWさんが続ける。
「ちょっと起きてみましょうか?」
優しげに話しかけるが、そこには有無を言わせぬ何かが。
寝返りを打つのも痛みで苦しいこの状態で、ベッドの上に起き上がるなんて出来るのだろうか?
Wさんの手が差しのべられる。
もうやるしかあるまい!
半身をWさんの支えに委ね、体を起こそうともがく。
患部に到達するためメスの入れられた腹筋に力を入れる。痛い!
自問自答↓
「痛みを10段階で言うとどのくらいですか?」
10段階で言ったら30段階?
とにかく痛い!←2年後この痛みを忘れる日が来るなんて!覚えているけど頭の中だけでね?
ようやくベッドに起き上がり体を折り曲げて痛みに耐えるわたしにWさんが言う。
「ところで立てますか?」
ここからすでにわたしのリハビリは始まっていた。
そして現在に至るまでリハビリは続いているのである。
つづく