
「僕たち、その、つまり僕といとこは
ある用件があって
四日ほど前からこの町に滞在している。
この部分は話せば長くなるので
省略させてもらうね。
そのいとこが
何も言わずに出ていって行方不明なんだ。
心当たりの場所を
探しまわっているんだけど
今のところまだ見つかっていない。
行く当てなんてないはずなのに
どこに行ったのか
さっぱり見当がつかない。
今、偶然この店の前を通りかかって
思いだしたんだ。
そう言えば彼の時計が壊れていたってね。
これは全くの当てずっぽうだけど
もしやと思って。
この二、三日中ここに
腕時計を修理に来た男が
いなかっただろうか」

女店員はますます
困惑した様子だった。
「僕に似てけっこうかっこいい奴なんだ。
覚えてないかな」

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耀が冗談っぽく言って
髪をかき上げる仕草をしたのが
彼女の気持ちを和ませたらしい。
「かっこいいかどうか
私にはわかりません」と笑ったが
耀を見る目はまんざらでもない。
「交代勤務なので
全てのお客様には会っていませんが
少なくとも私の時には
そんな人はいませんでした。
この2、3日の事だったら
来店リストで調べられますが
どんな時計だったんですか。
それと、いとこの方の名前も
教えてもらっていいですか」
耀は我が意を得たりとばかりに、カウンターに身を乗り出した。
「彼の名前は林浩。
時計はブルーの文字盤とブルーのバンド。
これでわかるかな」

「ちょっと探してみます」
女店員がうつむいて
帳簿をめくっている間
耀はわずかに期待を持ちながら
待っていた。
これで何か良い情報が
得られればいいのだが。
彼女はすぐに帳簿から
顔を上げた。
「残念ですが
そんな方はいらっしゃらないようですね」
「そうか、やっぱり」
耀は肩を落とした。
よく考えてみれば
そう上手くいくわけがないのだ。
時計店に寄ったんじゃないかというのも
単なる憶測だ。
「ありがとう。
手間かけて悪かったね」
耀があきらめて
店を出て行こうとしたその時だった。
店員の左手に目が止まった。

受付台の上で軽く組んだ手の甲に
今までは台の下で見えなかったのだが
サインペンで書いたと思しき
長い数字の列が並んでいる。
090で始まるその数字には見覚えがあった。



