耀は山の麓に住む老師を訪ねた。

老師の住まいは小さな庵だった。

室内には必要最低限のものしかなく

余計な物は何一つ置かれていない。

質素ながらも落ち着いた暮らしぶりには

世俗への執着のなさがうかがえた。

 

 

老師は耀の顔をしばらく見つめた後

静かに言った。

「私は弟子を取らない主義なのだが……

まあ、よかろう」

そして立ち上がる。

「ついてきなさい。

まずは私のするとおりに

やってみることだ」

 

 

 

修行は翌朝から始まった。

まだ朝靄の残る山道を

老師とともに登る。

老師は道端に薬草を見つけると立ち止まり

その名や効能を教えながら

摘み取っていった。

やがて三十分ほどで山頂へたどり着く。

 

 

「見なさい」

老師は眼下に広がる景色を指した。

山々が連なり

遠くの町並みまで見渡せる。

「自然の中、とりわけ山の頂には

天地の気が満ちている。

我々もここでは気を集めやすい」

 

 

 

そう言うと老師は崖際へ歩み寄った。

下を見れば足がすくむような断崖絶壁だったが

老師はまるで気にも留めず

安定座を組む。

「しばし瞑想しよう」

 

 

耀もその隣に腰を下ろした。

背筋を伸ばし、静かに目を閉じる。

呼吸を深く、ゆっくりと整える。

大地に触れている感覚を意識しながら

体内に気が流れ込んでくる様子を思い描く。

 

 

細く長く息を吐き、丹田を引き締める。

そして再び深く吸う。

吸った気を胸の奥で溜め

体内で温められた気を

体内のすみずみまで巡らせていく。

 

 

不要なものを吐き出すように

ゆっくりと息を吐く。

疲労も迷いも雑念も

すべて呼気とともに流れ去っていく。

その呼吸を何度も繰り返しているうちに

耀は不思議な感覚を覚えた。

体の表面からゆらゆらと白い靄が立ち上り

煙のように流れていく気がしたのだ。

 

 

その時だった。

どこからともなく

かすかな鈴の音が聞こえた。

リーン……。リーン……。

澄み切った音色だった。

老師が鳴らしたのだろうか。

それとも幻聴なのか。

あるいは自分の内側から

聞こえてきた音だったのかもしれない。

 

 

ふと、亡き父母の声が

聞こえたような気がした。

耀が目を開けると

風が木々を揺らしていた。

 

 

 

その日は畑を耕し

薪にする木を集めるなどの作業を手伝った。

単純な作業だったが

不思議と心は落ち着いていた。

そうして一日が終わった。

 

 

夜になると

耀は再び老師の庵で瞑想を行った。

空には満月が浮かんでいる。

月は東洋において

不老不死や再生の象徴とされてきた。

天にありながら満ち欠けを繰り返すその姿は

古来より死と再生を連想させ

人々の信仰の対象でもあった。

 

 

耀は月明かりの差し込む庵の中で

静かに座る。

青白い光が床を照らしている。

ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。

 

 

月の静かな波動に身を委ねるように

息を吐くたびに体の力が抜けていく。

息を吐くたびに心の重みがほどけていく。

息を吐くたびに

自分という境界が薄れていく。

 

 

やがて耀は

自分が夜気と一つになり

月光と溶け合い、広大な宇宙の中へ

静かに広がっていくような

感覚に包まれていた。

 

 

 

 

前回からの続きです。

 

 

 

 

翌日――。

「林花亭」の昼休み。

 

 

耀と浩は向かい合って

テーブルについていたが

耀は何か考え込んでいるらしく

口数が少なかった。

 

 

「ねえ、昨日あの監督と何の話をしたの?」

浩が尋ねた。

「ああ……映画の感想を話したかったんだよ。

そんなにたいした用じゃない」

耀は言葉を濁した。

 

 

浩は心配そうにその顔を見たが

あえて追及はしなかった。

(耀、嘘が下手だね。顔に出てるよ)

二人の間に沈黙が落ちる。

 

 

しばらくして

耀が独り言のようにつぶやいた。

「九つの龍って何だろう。

何か意味があるのかな」

 

 

「そうだね……。言われてみれば

僕たち意味なんて考えずに

突っ走っていた気がする」

 

 

耀は視線を落としたまま言った。

「例えば最初の手水舎やデパートの壁画

ドラゴン列車――。

あれは本当に、九鬼の言う

『九つの龍』だったんだろうか」

 

 

「次のメッセージをもらったんだから

合っていたんじゃない?」

 

 

「でも、ドラゴン列車を最後に連絡は途絶えた」

耀は腕を組んだ。

 

 

「何かを見落としていたのかもしれない。

あの時、何が足りなかったんだろう」

浩も考え込む。


 

 

「それから二か月後に南関へ呼ばれた」

「あそこは九鬼の第二の拠点だからね」

「そして、一応は決着がついたと思った」

耀はゆっくり首を振った。

「でも、まだ終わっていない」

 

 

「どういうこと?」

「監督は言っていたよね。

『本当に知ってもらいたいことがある』って」

浩は黙って聞いている。

 

 

「ホラーテイストは

客を呼ぶための手段だった。

本当に伝えたいことは別にあったんだ」

耀は顔を上げた。

 

 

「中華街には龍なんていくらでもある。

でも、本当に見てほしいものは

その中に一つだけ紛れていた」

「つまり……」

「残りは目くらましだったのかもしれない」

 

 

浩は目を見開いた。

「それで、その『本当に知ってほしいこと』が

何なのか分かったの?」

「いや、分からない」

耀は苦笑した。

 

 

「ただ一つ分かったことがある」

「何?」

「九鬼と正面から戦うのは

とてつもなく大変だってことだ」

 

 

浩は嫌な予感を覚えた。

「それで……?」

「修行が必要だと思う」

耀ははっきりと言った。

 

 

「僕は道場にいらっしゃった

老師を訪ねる。

そして、その人の下で修行を積むつもりだ」

 

 

 

 

浩は思わず声を上げた。

「えっ?」

驚きのあまり言葉が続かない。

「どうしたの、急に。

店だってあるじゃないか。

『林花亭』はどうするの?」

 

 

「しばらくは大変かもしれない」

耀は申し訳なさそうに笑った。

「でも、残ったみんなで頼む。

できるだけ早く帰ってくるように頑張るから」

 

 

「そんなの無責任だよ。

百雄おじさんだって麗華ちゃんだって怒るよ」

 

 

「前から考えていたんだ」耀の声は静かだった。

「『林花亭』を守るためには

もっと強くならなきゃいけないって」

 

 

浩は食い下がった。

「うちの道場じゃ駄目なの? 

僕だっているじゃないか」

 

 

耀は少し笑った。「浩は十分強いよ」

そして真顔になる。「でも、僕の方が年上だ」

浩をまっすぐ見つめた。

「皆を守るのは、僕の役目なんだ」

 

 

月・水・土に投稿予定です飛び出すハート

 

アサイーボウルのブーム

また来ていますね。

それも強い波です。

 

 

私が初めてアサイーボウルを知ったのは

2013年前後の第一次ブームのころでした。

あの頃は“ハワイアン三点セット”

とでも言いたくなるような流行が

一気に押し寄せていて

 

 

ハワイアンレストランが増え

パンケーキが話題になり

そしてアサイーボウルが

一気に広まった時期でした。

 

 

その後も小さな波が続きながら

気づけば2026年の今もアサイーボウル人気は

しっかり定着しています。

 

 

専門店が新しくできたり

タリーズやドトール珈琲店でも

アサイー商品が登場したりと

身近な場所で見かける機会が

ぐっと増えました。

 

 

フルーツパーラーや町の小さな果物屋さんが

オリジナルのアサイーボウルを

出しているのも、なんだか嬉しい流れです。

 

 

 

そして最近は

家庭でも気軽に作れるようになりましたね。

フルッタフルッタの

冷凍アサイーがスーパーに並んでいて

100gの使い切りサイズだから

扱いやすくて便利。

 

 

健康食とスイーツの中間で

罪悪感が少ないのも

ブームが長く続いている

理由のひとつかもしれませんね。