月・水・土に投稿予定です

 
 

とある企業のホームページを

見ていたときのこと。

 

スタッフ紹介のページで

新入社員と思われる若い男性が

好きな言葉に「乾坤一擲(けんこんいってき)」

を挙げていました。

 

 

司馬遼太郎や城山三郎の小説でしか

見かけないような四字熟語を

若い人が知っていることに

少し感心しました。

 

 

そして、そのとき

昔のあるエピソードを思い出したのです。

 

 

 

 

 

ずいぶん前のことですが

私はある部署で編集や校正の

仕事をしていた時期がありました。

 

 

その頃、原稿の執筆者だった

60歳くらいの男性(Sさんとします)が

自分で書いた原稿を持ってきて

「見てくれないか」と

相談してきたことがありました。

 

 

それは、Sさんの勤める会社の

「50年史」でした。

その会社は10年ごとに社史を発行しており

Sさんの定年退職後のポストが

その社史編纂室だったのです。

 

 

社史はすでに印刷・発刊済みだったのですが

Sさんはその一部を二次利用して

自分史を作ろうとしていました。


 

 

その50年史ですが

驚くべきミスがありました。

 

 

存在しない架空の四字熟語が

そのまま印刷されるという

大事故が起きていたのです。

それも一つではなく、二つも。

 

 

それこそが、先の

「乾坤一擲(けんこんいってき)」と

「八紘一宇(はっこういちう)」でした。

 

 

「乾坤一擲」は、歴史小説や

経済小説などで時折見かけます。

「乾坤一擲、社運をかけて……」

といった具合です。

でも、これらは読み方を知らなければ

絶対にキーボードで打ち込めません。

 

 

 

もう一つの「八紘一宇」。

これは当時の私も知りませんでしたが

それもそのはず、古典を由来とし

「世界を一つの家のようにまとめる」

という意味で使われた

戦時中のスローガンだったのです。

 

 

どのような文脈で社史に使われていたのか

今となっては思い出せません。

「乾坤一擲」も「八紘一宇」も

昭和十年代生まれのおじさんが好みそうな

気合の入った重厚な言葉ではあります。

 

 

 

当時、どのようにして「八紘一宇」に

たどり着いたかといえば

おそらく紙の辞書で調べたのだと思います。

 

 

「八」で始まる似た漢字を探し

文脈に合いそうな意味から

「これだ」と突き止めたのでしょう。

 

 

今ならPCで「八」から始まる

四字熟語を検索したり

AIに「『八』と『一』が入っている

四字熟語を教えて」

と尋ねたりすれば一発です。

 

 

しかし当時は

オフィスの1課に数台のPC

(あるいはワープロ専用機)を

共有で使うスタイルから

社員1人に1台ずつPCが行き渡る過渡期でした。

 

 

検索エンジンも黎明期で

Googleが登場したばかり。

 

 

個人環境でいえば

PC好きの人は買って使い始めていました。

まわりの友だちがPC好きだったので

影響受けて私も買いましたが

まだ少数派でした。

 

 

 

 

所用のため、一週間ほど

ブログの更新をお休みします。
 

 

季節の変わり目で体調が

ゆらぎやすい時期ですね。

皆さまもどうぞご自愛ください。

 

僕らのゼミは教官と学生3人の小さなゼミだった。

8才年上の僕.

賢い弟分の林秀峰。

可愛い妹分の井上璐美。

僕たちは長い時間を共にした。

いつも3人いっしょだった。

3人の結びつきは固く離れがたいものだと思っていたが…

 

ある日ついに見てしまった。

恐れていたことが起こってしまった。

 

 

人目に付かないような

キャンパスの一角の芝生で木を背にして

若い二人が寄り添って座っていた。

 

 

彼は彼女の肩にもたれかかり、足を前に投げ出していた。

僕がいる前では絶対に見せないリラックスした格好だ。

二人はまるで恋人同士のように見える。

 

 

僕が近くにいるのに気がつかず

「こうしたかった」と彼が言う。

「いつから」と彼女が聞き返す。

「ずっと前から」

 

 

僕がどれほどショックを受けたか

言葉では言い表せない。

 

隠していた。

二人して僕を欺いていたのだ。

 

 

 

卒業まであと数か月

ゼミの時間に顔を合わせなければならないのが

苦痛だった。

 

 

僕の態度がぎくしゃくしたものになったので

彼らは気づいたかもしれないが何も言わなかった。

 

 

いつからだろう。彼女の顔から笑みが消えたのは。

彼女の芝居は完璧だった。

 

二人とも自分からは言わないだろう。

 

彼は友だちである僕に義理だてし

彼女も僕と彼の友情に義理だてする。

だから僕が解放してやった。

 

彼らとは距離を取って必要以上に会わないことにした。

理由は言わなかった。

それが僕のプライドだったから。

 

 

卒業して自然にフェイドアウト。

二人に会うこともなくなった。

どこでどうしているかも知らない。

 

 

僕は伯父の事業の手伝いをして

暇な時にこうやって公園に来ている。

 

遊んでいた子どもたちが

誰かを仲間外れにしようとして

はやし立てていた。

 

  二人は仲良し。三人いらない。

  二人は仲良し。三人じゃ多すぎる。

  二人は仲良し。

 

子供のかん高い声が急に魔物のような低い声に変った。

 

  三人目は邪魔者。

 

その言葉が、ぐいと胸に突き付けられ身震いした。

 

 

僕は耐えきれず両手で顔を覆った。

柔らかい顔の皮膚がだんだんこわばっていく。

昔の古傷が盛り上がっていく。

 

 

子どもたちが僕の異変に気がついたのか

ひとりの子が指さした

 

「見て、見て、あのおじさんの顔」

「きゃーっ、怖い」

 

僕はその場から急いで去った

 

一人の母親がじっと見ていた。

「信じられない。ううん、錯覚だと思うけど

人の顔じゃなかった。

まるで猩々(しょうじょう)みたいだったわ」