月・水・土に投稿予定です
そもそもSさん(というか
当時の一部のおじさんたち)は
ワープロ入力など誰がやっても
変わらない単純作業だと
思い込んでいた節があります。
読みにくい手書き文字も
機械を通せば綺麗に整うはずだと。
簡単な文章なら
それでもよかったのかもしれません。
しかし
歴史的用語や格調高い難読漢字となると
入力担当者のスキルに大きく左右されます。
辞書で調べる能力や、
「文脈的にここにはこの言葉が入るはずだ」
と見当をつけられる語彙力・読解力を
持った人に頼むべきだったのです。
③ Sさんの(恐怖の)ノーチェック
たとえ二つのハードルを
すり抜けてしまったとしても
最終的に筆者本人が原稿をチェックしていれば
そこで防げたはずでした。
しかし
それすらありませんでした。
自分の原稿は完璧だと思い込んでいる。
原稿を渡した時点で
自分の仕事は終わっている。
ワープロ出力紙を見返す習慣がない。
校正は他人がやるもの。
誤字が起きるという発想すらない。
だから仮に誤字があっても
それは自分の責任ではない——。
こうして、起きるべくして起きた
「存在しない四字熟語のそのまま印刷」
という珍事。
第三者から見れば
まるで質の悪いコントのような事態が
完成してしまったのです。
私が原稿を預かって目を通したあと
この四字熟語も含めて
校正の結果をSさんに報告しました。
そのミスの指摘を聞いたとき
Sさんは軽く「ちっ」と舌打ちをしたのです。
一体、何に対する舌打ちだったのでしょうか。
「社史」はすでに印刷・発刊されて
しまっています。
もう修正することはできず
取り返しのつかない状態です。
つまり、自分の犯した大失態が
半永久的に残ってしまうわけです。
自分の面子(めんつ)が
つぶされたことに対する苛立ちでしょうか。
幸いなことに、これは
企業の内輪で配られる「社史」ですから
実際に目を通すのは
社内の一部の人間だけでしょう
(もっとも、この大事故は後輩たちの間で
語り継がれることになりそうですが)。
あるいは
地域の図書館などに寄贈され
一般の人の目に触れる可能性だって
ゼロではありません。
原稿を入力したアルバイト女性に対して
怒りたかったのかもしれません。
しかし、彼女を採用したのは自分自身です。
そして、彼女が頼りないと知りながら
出来上がった原稿のチェックを怠ったのも
自分の怠慢でした。
それらすべてに対する苛立の「ちっ」です。
このように、パソコン作業を
誰かに丸投げしておきながら
いざミスが起きると不満を露わにする人
——そういうタイプは
当時一定数存在しました。
(……もしかすると
それは今も変わらないのかも)
。


