「黒幕がいるんだ」兄の耀はそう言った。

「メッシュは単なる手下にすぎない

あいつはボスの指図で動いているだけさ」

 

その当時の刑事ドラマの影響か

「ボス」という言葉に力をこめて話した。

 

 

麗華も一度だけ

黒幕らしき男を見かけたことがある。

 

 

ピカピカの黒塗りの車から降りて

横に立っていた。

トレンチコートを着て

帽子を目深にかぶっていたので

顔はよく見えなかったが

紙をくしゃくしゃに丸めて

伸ばしたようなしわだらけの顔だった。

 

 

帽子からわずかにのぞいていた

口元がニッと笑った時にはぞっとした。

妖気が陽炎のように全身を包んでいて

一度見ただけでその姿は強く印象に残った。

 

UnsplashCraig Whitehead

 

 

あの男はすごい金持ちだけれど

一人で大きな屋敷に住んでいる。

 

 

後に男の名前が九鬼だということが

分かった。

 

 

あの男がボスに違いないと麗華は思った。

本当に悪いのはあの男。

あの男が何かを企んで

メッシュを差し向けているのだ。

 

 

前髪の一部分が白髪のメッシュは

年齢不詳の容貌だが30代だそうだ。

 

 

背は小柄で、顔は赤ちゃんのような

ぽっちゃりとした丸顔に

銀ぶち眼鏡をかけている。

 

 

メッシュが帰った後

伯母はずっとうかない顔をしていた。

「おばさん。どうかしたの」

と麗華はたずねた。

 

 

麗華と兄の耀が

一つ屋根の下に住んでいるのは

両親ではない。

 

 

幼いころに両親を亡くした

兄妹を引き取って

実の子同様に育ててくれた

伯父夫婦には二人は本当に感謝している。

 

耀は大学まで出してもらった。

 

 

「麗華ちゃん。実はね」

いつになく伯母の思いつめた表情を見て

麗華はハッとした。