翌朝、陽が昇り
村の光景が白日の下にさらされると
その荒廃ぶりがはっきりと見えてきた。
道路は舗装されておらず
木造家屋も傷みが激しい
今にも倒れそうな家が何軒も並んでいた。
駒田は、昨日出会った老人が
畑仕事をしているのを見つけて近づいた。
老人は駒田を見ると、にっと笑った。
だが、歯は何本も欠けていた。
「あの、この村って黒沢村ですよね」
「そうじゃよ。よう来たな」
「でも、地図には-」
「地図にはもう載っとらん」
老人の名は生田。
今年七十歳になるという。
村で最も年長の住人だった。
「戸籍の上じゃ
十年前に死んだことになっとるがな」
生田は生まれてからずっと
この村に住み続けている。
村の歴史を知る数少ない人物だった。
「わしらは
死んだことにされて生きてきたんじゃ。
行政の怠慢で死亡扱いにされたが
抗議しても相手にされんかった」
「なぜ、そんなことになったんですか?」
「もともとは行政のミスじゃ。
十人分の戸籍を紛失してしまったのに、
それを認めなかった。
認めれば責任を問われるからな。」
生田は鍬を止め、山の方を見た。
「昨日見ただろう、あのトラックを。
この先の山じゃ開発計画が進んどる。
無人地帯ということになれば
住民の反対もないからな」
「ひどい話じゃないですか」
「わしらはまだいい。
かわいそうなのは子どもたちじゃよ」
生田は近くを見やった。
石を蹴って遊んでいる少女がいた。
名前はミオ。八歳。
生まれたときから戸籍がなく
法律の上では存在しない子どもだった。
両親は貧困の中で亡くなった。
学校に通ったこともない。
村の外へ出たこともなく
言葉もたどたどしい。友だちもいない。
ミオは石蹴りをしたり
森へ入って草花を摘んだりして
一日を過ごしていた。
外の世界への憧れはあるのだろう。
だが、そこへ行く方法すら知らないのだった。


