「どうして彼女が警察官だと気づいたのか」
「そんな事わかるわけない」
浩はあっさり言った。
「警察官なんて思いもしなかった」
「じゃあ、なぜ?」
「これだよ」
浩は手を斜に交差させ
交互に打ち払う動作をした。
白鶴亮翅(バイフーリャンチー)。
自然と口をついて出てきて
耀はやっと気がついた。
夜市でくるみが見せたダンスの最後の
決めのポーズは、白鶴亮翅だ。
左右からの突きを払いのけた後
一歩踏み込んで相手の首に腕をひっかけ
体を開く勢いを使って倒す技。
「彼女には武術のたしなみがあるのが
一目見てわかった」
「それで抱拳礼で返したのか」
「自分も同好の士だという意味を込めてね」
耀は恥ずかしくて汗が噴き出る思いだった。
弟分だと思っていた浩の方が
よほどしっかりしていた。
夜市の熱気に呑まれて
舞い上がっていたのも
果物売り娘にのぼせて
見えるはずのものが見えなかったのも
自分の方だ。
「同じ武芸を志す者に
悪い奴はいないと思ったんだ。
それでどうしても
声をかけずにはいられなかった。
あの日少し話して
また次の日会おうと約束した」
「私も浩にはすぐに
ピンとくるものがあった。
この人は大丈夫だと思って
連絡先を渡したわ。
そして二回目に会った時
偶然にも同じ名前の人物を
追っていることがわかったの」
「それが九鬼だったのか」
耀は不機嫌にうなった。
「どうして黙っていたんだ。
おかげでずいぶん振り回されたよ」
「悪かった」
浩は大げさに手を広げた。
「でもしょうがなかったんだ。
彼女と二人だけの約束だったから」
「耀さん。浩を許してあげて。
情報が漏れるとまずいので
私が話さないように頼んでいたの。
捜査のためには仕方なかったのよ」
二人が顔を見合せにっこり笑う。
自分だけ仲間外れになったようで
耀は悔しかった。
わかるよ。わかるんだけど。
くるみは真顔に戻って話を続けた。
「昨日の晩、連絡がなかったので
浩の身に何か危険な事が起ったと思った。
それで目星をつけていた
いくつかの場所をすぐに当たったわ。
この『ヴァレイ・ホテル』もね。
早い時期に発見できてよかった。
それと浩に打たれた点穴だけど
耀さんが見破れなかったとしても
浩が防げなかったとしても
恥じることはないわ。
九鬼の手の者が使った術は
ごくわずかな人しか
知らないものだから」
「どういう技?」耀が聞いた。
「一度仮死状態にして催眠をかける。
自分の意志を持たない
凶暴な操り人形にして
利用することができるの。
例えば…人を襲わせることだって可能よ」
「あっ、じゃあ、馬田さんは―」
浩が思い出して大声を出した。
「その術をかけられていた。
だから―」
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