
店員の左手に目が止まった。
受付台の上で軽く組んだ手の甲に
サインペンで書いたと思しき
長い数字の列が並んでいる。
090で始まるその数字には
見覚えがあった。
「ねえ、その手どうしたの」
「ああ、これ」
店員は恥ずかしそうに手をひっこめた。
「石けんで洗っても消えないんです。
おかしいでしょ。癖なんです。
子供みたいって笑われるけど」

確かに忘れないように
手にメモしている人がいるが
今、耀が問題にしているのは
おかしい、おかしくないではなく
その数字の方だ。
「ちょっと見せてもらってもいいかな」
耀は勢いづいた。
「ごめん、変なこと聞いて。
でもその数字って携帯の電話番号だよね」
まちがいない。下4桁は同じだ。
これって、どのくらいの確率だろう。
10の四乗、1万分の1!
それに小さな町の中という
限られた範囲を考えると
確率はもっと上がってくる。
「これを見て」
耀はくるみの名刺を差し出した。
「浩が持っていたものなんだ。
君の手に書いてある番号と
下4桁いっしょだろう。
今、浩はこのくるみって娘と
いっしょにいるかもしれないんだ。
ねえ、君。
その電話番号は
どうやって手に入れたの。
誰のものなの」
店員はさすがに困った顔をした。
聞かれたからといって
客の個人情報をそう簡単に
教えるわけにはいかない。
もしもしゃべった事が店長にばれたら
怒られるにきまっている。
でも目の前にいるこの人も
悪い人ではなさそうだ。
できることなら力を貸してあげたい。
彼女がそう迷っているように
耀には思えた。
「あなたのいなくなったいとこと
何か関係があるっていうの」
「浩の行方がわかるかもしれないんだ。
無理な頼みかもしれないけどお願いだ。
助けてくれよ」

耀の真剣な眼差しに圧倒されて
女店員はふっとため息をついた。
「これは女性のお客さまの
電話番号です。
正確に言うと
カップルで来たうちの一人のもの。
商品を取り寄せるのに
何日かかるか調べてほしいって言われて。
でも昨日のうちに連絡は終わって
すでに解決済みよ」
「二人連れ?」
耀はどきりとした。
それが本当ならば
張り込みの最中に
彼女に会っていたということになる。
いや、まだ浩だと
決めつけるわけにはいかないが。
「その二人、外見はどんな感じだった?」
「そりゃ、お似合いの
すてきなカップルでしたよ。
女性は髪が長くスタイル抜群で
男性は何かスポーツで
鍛えているようなタイプでしたね」
「そうか、それじゃ、やっぱり浩たちだ」
耀が小声でつぶやくと
店員はつられたようにうなずいた。
「彼らと何か話しをしたかい。
例えば今後の予定とか
これからどこに行くかとか
何でもいい。
何か手掛かりになるような事があったら
教えてくれないか」
店員は「さあ」としばらく考えていた.
