Peggy und Marco Lachmann-Anke from Pixabay

 

耀は五山荘を出て市場へ向かった。

 

夏の間は早朝から開いているが

いくつかの店は

昼と夜では看板を掛け替えていた。

 

 

「一杯飲み屋」が「朝粥の店」になったり、

「秘密のマッサージ」が

「総合整体」になったりと、

安心、健全な昼用の店構えに変えている。

 

 

耀は記憶をたよりに

格子状の道を何度か曲がった末に

ようやく目当ての果物売り娘の店の前に

たどり着いた。

 

 

ブースの中に娘がいるにはいたが、

件の娘とは似ても似つかない

不器量な娘だった。

 

 

「君はいつからここにいるの」

耀はくるみの名刺を差し出した。

「この子知っているよね?」

 

 

彼女は自分の客でないとわかると

面倒くさそうに「知らない」と顔をそむけた。

 

「そんなことないだろう。

彼女ここで働いていたじゃないか。

僕は知っているよ」

耀はつい、かっとなって声を荒げてしまった。

  

   

「お兄さん」

どこからか呼ぶ声がした。

 

 

向かいの焼鳥屋の男が

手招きして呼んでいる。

どうやら二人のやり取りを見ていたらしい。

 

 

「これサービスだから遠慮しないでね」

男は小さなナゲットの串を

一本差しだした。

 

Photo by Léo Roza on Unsplash

 

「知りたいのは果物売りの彼女のこと?」

 

 

耀はうなずいた。

「夜の娘と違いますね」

 

 

「きのう急にやめちゃったみたいだよ。

夕方まで待ってても

もう出てこないよ」

 

 

耀はうっかり串を取り落としそうになった。

「本当ですか。

ずいぶん急じゃないですか」

 

「うん」

 

耀は言葉を失った。

 

何らかの関りがあるのではないかと

当てにしていた

果物売り娘が昨日のうちに辞めていた。

浩が姿を消したのと同じ日に。

これって偶然だろうか。

 

 

娘は浩に名刺を渡していた。

近いうちに店を辞めるつもりならば

そんなことはしないはずだ。

 

 

わけがわからず

しばらくぼんやりしていると

「残念だったね」

と焼鳥屋は慰めるように言った。

 

 

「がっかりするのも無理はない。

いい娘だったからね。

俺も寂しいよ」

 

 

耀は力なく笑った。

どうやら彼女にご執心の男だと

勘違いされたらしい。