えり子は総務班に属していて

 

経理や勤務管理のほか、回ってきた書類を

担当者に振り分ける仕事をやっている。

 

 

主任が扱っている案件の多さに毎度驚き

それにもかかわらず

彼がいつも感じよく

平常心を保っていることに敬意を払っている。

 

 

彼の席の横に立つと

書類が積まれているのは机の上だけではない。

 

 

彼の椅子の両サイド、机の下の奥

彼の足元にも

ファイルがびっしりと立ててあるのがわかる。

 

 

彼は身長百八十センチの長身だが

いつも猫背気味で身を縮めるようにして

机に向かっている。

 

 

その姿を見慣れていると

彼がすっくと立ちあがった時に

思いのほか背が高いことにびっくりしてしまう。

 

 

この狭いスペースのどこに

彼の長い足を折りたたんで

収納しているのかと想像すると

失礼だが、いつもくすっと笑ってしまう。

 

気づかれないようにこっそりと。

 

 

「主任。あの国からの書類どうなっていますか」

と言うと

「ああ、あれね。ちょっと待っててね」

とすぐに快く返事をしてくれる。

 

彼の肩あたりぐらいまで積み上げられた

A4の書類の中から

「大体この辺かな」と見当つけて

山を崩すことなく数枚の紙を引っ張り出す。

 

主任はわかっている。

 

この膨大な書類の山の一つ一つの内容と

それをどこに置いたかを

彼の頭一つで把握しているのだ。

 

 

「そんなのあったっけ。記憶にないな。

でも君がそう言うのなら受け取っていたのだろう。

はて、どこに置いただろうか」

なんて焦って探し回ることはない。

 

 

主任のすばらしい理解力と記憶力は

何億年前の地層の断面を前にして

「このへんがジュラ紀の層。

アンモナイトの化石が埋まっているのは

このあたり」

 

 

とぴたりと指し示す考古学者みたいだと

えり子は思う。

 

 

 

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです