エレベーターに乗って三階の

「資料室」の前まで黒木は送ってくれた。

 

 

「どうもありがとう」

清司は手を振って黒木と別れた。

 

 

室内に入ると

清司を置き去りにして先に行った連中が

ちらちらと見たが、清司は気づかないふりをした。

 

 

会議室に行くとドアが閉まっていた。

ドアノブに手をかけたが

中から声が聞こえてきて

清司は開けるのをやめた。

 

それは室長の声だった。

 

「業務分担からすると彼になりますが

彼一人だと心もとないですからね。

日隈君に一緒にやってもらいましょうか。

それなら問題ないでしょう」

 

 

「そうですね。そうしましょう」

もう一人はたぶん天童さんだ。

 

その後は

小声になって聞き取れなくなった。

 

 

室長がネガティブな文脈で

「彼」という時は大体自分のことを指している。

いったい何のことだろう。

 

清司はドアの前で立ちすくんでいた。

 

会議の時間までに会場の設営を終え

資料を各々の机の上に

並べておかなければいけないが

二人はなかなか出て来ない。

 

 

清司は時計を見ながら

会議室の前を行ったり来たりして

途方にくれていた。

 

 

「何をしているんですか」

怪しい者を問い詰める様な声色で

バイトのよし子嬢が声をかけてきた。

 

 

清司は会議室を指さして

「お籠り中なんだよ」と答えると

よし子嬢は「はぁ~」と

気のない返事をして去っていった。

 

 

結局、二人がドアを開けたのは

ぎりぎりの時間だった。

二人だけの時間は楽しいものだったらしく

にこやかに話しながら出てきた。

 

 

室長は笑顔を保ったまま

待っていた清司と目があったことを

内心「しまった」と思っているようだった。

 

 

「早川さん。すみませんでしたね。

お待たせしました」

と天童さんはニコニコしながら言ったが

その笑顔が食えないのである。

 

 

それから清司は大慌てで会議の準備を始めた。

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです