市役所の課長たちは概ね五十代で
岩田もそれぐらいの年齢だが
岩田は見た目が若々しく清潔感があり
スーツの着こなしも垢ぬけていて品がある。
えり子は二日前の歓迎会の二次会
カラオケパブでの様子を思い出した。
皆、先を争って自分の得意曲を披露する中
課長は恥ずかしいのか柄に合わないと思ったのか
勧められても一曲も歌わなかった。
「岩田課長ってカラオケ苦手なんですか?」
えり子が横に座っていた向井に尋ねると
「そうね。
課長が歌っているところ見たことないわね。
嫌なのかもしれない。
でも皆の歌をニコニコ笑って聴きながら
最後まで私たちに付き合ってくれて
お金も気前よく払ってくれるのよ。
あ~、でもそれよりも課長が歌うのなら
『君はバラより美しい』を歌ってほしいな。
だって岩田課長は本当にあの歌手に
そっくりなんですもの」
と往年の人気歌手の名前を上げた。
その場にいた他の人は
「全体の雰囲気はAに似ていると思う」
とハンサムな映画俳優の名を上げた。
また別の人は
「いや、自分はBに似ていると思うけどな。
目鼻立ちはBにそっくりじゃない」と言って
その話題ですごく盛り上がった。
名前が上がったのはいずれも
二枚目俳優、有名人ばかりだった。
顔の造作が整っている人は結果的に
皆同じような顔になるという証左かもしれない。
※ 2021年2月~に掲載したものを
修正して再投稿したものです