松木えり子は

六月一日付けで企画課に異動となった。

 

 

四月ではなく六月という中途半端な時期なので

「いったい何をやらかしたの」

なんて面白おかしくからかわれたが

特に意味はない。

 

 

ある部署で急な退職者が出て

欠員の穴埋めのために

何人かが順繰りに前任者を押し出して異動になった。

 

 

えり子もそのうちの一人というわけだ。

 

 

入庁以来四年間、出先の事務所勤めだったが

今回初めての本庁勤務となった。

 

 

えり子は一人で緊張して皆の前に立って

自己紹介をした。

 

 

「希望を出していた企画課に

こんなに早く異動できて嬉しいです。

皆さんの期待に添うように頑張りたいと思います」

 

 

大きな拍手で迎えられ

「花の企画課へようこそ」と掛け声が飛んだ。

 

 

「このカップすてきですね」

えり子はトレイに並べてあるコーヒーカップの

一つに目をつけて持ちあげた。

 

「断然洒落ているわ」

 

 

「ああ、それ課長のものよ。

ブランドものでしょうね。

ジノリじゃないかしら。

結婚記念日に奥さんとお揃いで買ったんですって。

課長と奥さん、とても仲がいいらしいのよ」

 

 

「あら、そうなんですか」

えり子は感心してうなずいた。

「課長ってずいぶんこだわりのある人なんですね」

 

 

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです