〈 清司のパート 〉
「へのへのもへじさん」
ちょっと前から室長に対する
フラストレーションがたまってきて
清司は室長のことを
心の中でそう呼んでいた。
もちろん誰にもしゃべっていない。
室長だなんて呼びたくないし
名前を呼ぶのも親愛の情がある人だけで十分だ。
別の名前、つまり仮面をかぶせて
「あの人はこういう人だからしかたがない」
と客観視しなければ気持ちが和らがない。
へのへのもへじさん。
何といっても顔が似ている。
への字の形をした上がり眉
不満を抱えた口元。
何を考えているか読み取れない表情。
清司を見る目はガラス玉のように
冷たい感情のない目だ。
昭和初期に建てられたという
天井の高い別館は、昼間でも薄暗く
向こうから歩いてくる人物は
シルエットしか見えない。
消灯している昼休みはなおさらだ。
廊下を歩いていて、暗がりの中から
室長の姿が白く浮かび上がった時
その異様さに驚いたことがある。
のっぺりとした暗い表情
首を前に突き出した前傾の姿勢
音もたてずひっそりと歩くその姿は
まるで亡霊のようだった。
過去の栄光に囚われ
恩讐の館の中を
今もさまよい続けている亡霊-。
※ 2021年2月~に掲載したものを
修正して再投稿したものです


