〈 清司のパート 〉

 

清司が重い鋼製のドアを開けると

室内には重い空気が立ちこめていた。

 

 

正面の奥には

室長が椅子の背にもたれかかり

新聞を広げて読んでいる。

 

 

「へのへのもへじ」にそっくりの

機嫌の悪そうな顔で。

 

 

清司は机にカバンを置くと

すぐに室長の席に報告に参じた。

 

「ただいま戻りました」

 

 

室長は

新聞からゆっくりと目を上げて清司を見た。

 

 

 

「用が終わりましたので

先ほどの件すぐにとりかかります。

あの、もう一度聞かせてもらえますか」

 

 

「先ほどの件、ああ、あれね」

 

わざとらしく高い声を出して

新聞をばさばさと音を立て二つに折り畳み

ぴしゃりと机の上に置いた。

 

「そのことだったらもういい」

 

「え、でも」

 

「それはもう終わったんだ。

君が忙しそうだったから日隈君に頼んだよ」

 

 

あわてて日隈の方を振りかえると

大きな図体ですました顔をして

パソコンに向かっている。

 

 

日隈は聞こえないふりをしているが

よもや聞こえていないとは言わせない。

こういう時はいつでもポーカーフェイスなのだ。

 

 

どこかでくすっと忍び笑いが起きた。

清司は背中がかっと熱くなったのを感じた。

 

 

「すみませんでした」

条件反射で頭を下げたが、内心

何で俺が謝らなくちゃいけないんだと思った。

 

 

「日隈さん、最近仕事忙しいみたいだな」

「誰かさんが仕事さばけないからだろう」

 

 

ひそひそ声の声色には

妙に愉快そうな調子が込められていた。

 

 

またか。これで何度目だろう。

清司は自分の席に戻りながら

がっくりと肩を落とした。

 

 

嫌がらせのパターンができてしまったみたいだ。

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです