〈 清司のパート 〉

 

 

行く手にT字路が見えた。

 

このT字路が曲者なんだ。

 

この先に何が待ち受けているかわからない。

手前から様子を伺って、一旦停止を怠らず

左右を何度も見渡して。ふーっ。

 

 

タクシー運転手は道を熟知しているのか

カーブミラーや標識を目印に

右、左と角を曲がり

住宅地の中を滑るように縫っていく。

 

 

清司の思いもまた迷走する。

 

 

誰に相談すべきか、いつ打ち明けるべきか

どのように話すべきなのか

なかなか考えがまとまらない。

 

 

角を右に折れたタクシーは

ようやく元の大きなバス通りに出た。

 

バス通りを五分ほど走ると青い空を背景に

十年ほど前に建て替えられた

市役所本館が姿を現した。

 

 

街の一等地に建つ一三階建てのビル。

玄関前のプロムナードのけやき並木が

大きく風に揺れている。

 

 

清司は

この陰影の濃い目にしみてなつかしい

緑の並木が大好きだった。

 

一仕事終えてやっと帰ってきたという

ほっとした思いになる。

 

だが、タクシーは本館の前を無情にも

通り過ぎていった。

 

 

本館が清司の職場だったのは二ヶ月前までで

今の清司の帰るべき場所は

 

 

百メートルほど行った先、本館の斜向かい、

通称「別館」と呼ばれている古い小さな建物で

そこは「帰りたくない」場所だった。

 

 

今日は出がけにひと悶着あったので

余計に「帰りたくない」気持ちに

拍車がかかっている。

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです