〈 エピローグ 〉

 

「資料室」と室名プレートが掲げてある

部屋の中から一人の男がそっと出てきた。

 

 

年の頃は二十代

モスグリーンのジャンパーに灰色のズボン

辺りをうかがいながら

そわそわと落ち着きがない様子である。

 

 

大丈夫、今日は日曜日だから

誰もいるはずがない。

彼はそう自分に言い聞かせた。

 

 

三階の他の部屋は閉まっていて

静まりかえっている。

 

音を立てたくないが

古い造りのドアなので閉めるときに

大きくきしむ音がする。

 

 

 

彼が、先ほどから誰かに見られているような

気がしてならなかったのは

休日出勤を申請せずに内緒で出てきたからだ。

 

 

カード式の鍵で施錠すると

彼はジャンパーのポケットから

ボタンを取り出してまじまじと見た。

 

 

彼のジャンパーのボタンとは違うものだ。

 

宙に軽く投げ上げて

横からつかみ取ると

またポケットに収めて歩き出した。

 

 

昭和初期に建てられ

市の歴史的建造物にも指定されている

この市役所別館は

 

 

天井が高く贅沢に空間を使った大きな吹き抜け

幅の広い階段が特徴であるが

人っ子一人いないとまるで遺跡の様だ。

 

 

彼が階段を降りようとしたその時

エレベーターの扉が開いているのを目にした。

 

 

ちょうどおあつらえ向きに

まるで自分を出迎えているように開いていた。

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです