僕らのゼミは教官と学生3人の小さなゼミだった。
8才年上の僕、九鬼義一郎。
賢い弟分の林秀峰。
可愛い妹分の井上璐美。
僕たちは長い時間を共にした。
いつも3人いっしょだった。
3人の結びつきは固く離れがたいものだと思っていたが…
ある日ついに見てしまった。
恐れていたことが起こってしまった。
人目に付かないような
キャンパスの一角の芝生で木を背にして
若い二人が寄り添って座っていた。
彼は彼女の肩にもたれかかり、足を前に投げ出していた。
僕がいる前では絶対に見せないリラックスした格好だ。
二人はまるで恋人同士のように見える。
僕が近くにいるのに気がつかず
「こうしたかった」と彼が言う。
「いつから」と彼女が聞き返す。
「ずっと前から」
僕がどれほどショックを受けたか
言葉では言い表せない。
隠していた。
二人して僕を欺いていたのだ。
卒業まであと数か月
ゼミの時間に顔を合わせなければならないのが
苦痛だった。
僕の態度がぎくしゃくしたものになったので
彼らは気づいたかもしれないが何も言わなかった。
いつからだろう。彼女の顔から笑みが消えたのは。
彼女の芝居は完璧だった。
二人とも自分からは言わないだろう。
彼は友だちである僕に義理だてし
彼女も僕と彼の友情に義理だてする。
だから僕が解放してやった。
彼らとは距離を取って必要以上に会わないことにした。
理由は言わなかった。
それが僕のプライドだったから。
卒業して自然にフェイドアウト。
二人に会うこともなくなった。
どこでどうしているかも知らない。
僕は伯父の事業の手伝いをして
暇な時にこうやって公園に来ている。
遊んでいた子どもたちが
誰かを仲間外れにしようとして
はやし立てていた。
二人は仲良し。三人いらない。
二人は仲良し。三人じゃ多すぎる。
二人は仲良し。
子供のかん高い声が急に魔物のような低い声に変った。
三人目は邪魔者。
その言葉が、ぐいと胸に突き付けられ身震いした。
僕は耐えきれず両手で顔を覆った。
柔らかい顔の皮膚がだんだんこわばっていく。
昔の古傷が盛り上がっていく。
子どもたちが僕の異変に気がついたのか
ひとりの子が指さした
「見て、見て、あのおじさんの顔」
「きゃーっ、怖い」
僕はその場から急いで去った
一人の母親がじっと見ていた。
「信じられない。ううん、錯覚だと思うけど
人の顔じゃなかった。
まるで猩々(しょうじょう)みたいだったわ」


