「卒業まであと半年だね。どうするつもり?」

 

僕と年の近い院生は

昼休み、キャンパスの喫煙所で

雑談するのが日課のようになっていた。

 

 

「僕は伯父の事業を手伝うことになっているんだ」

だから特に就職活動はしていない」

 

 

「そうか。寂しくなるね。

ゼミも無事終わりそうだしね。

で、僕が言っているのはそこじゃないんだ。

3人は離れ離れになるの」

 

 

僕がうなずくと

「この前言ったこと考えてみた?」

 

彼女のこと?璐美のこと?

 

「言ったじゃないか。

彼女とはずいぶん年が離れているって」

 

「8才ぐらいなにさ。

男は年上でいいんだよ。

特に彼女、璐美ちゃんはおとなしい子だから

頼りがいのある年上の男が相性いいと思うけどな」

 

「そんなものかな」

と僕は言ったけれどまんざらじゃなかった。

 

 

「彼女、特に誰かと付き合っているわけじゃないだろう。

チャンスはあると思うよ。

 

あ、もしかして林君のことを気にしているのか。

彼は成績優秀で、真面目だし見た目もいい男だ。

でも彼は華人だろう」

 

  林 秀峰。

 

「ああ、親戚が中華街でらーめん店をやっている。

何度か食べに行ったことがあるよ」

 

「彼はもったいないな。

優秀だけれど就職の面では難しいだろうからね

彼が希望する職には就けないかもしれない」

※  時代設定は1980年代です

 

そこへ行くと

君のうちは両親は亡くなっているけれど

相当な資産家だよね」

 

 

 

海と山に囲まれた港町で生まれた僕は

裕福な貿易商の家庭に育った。

 

 

一人息子の僕は小さいころから

英語やピアノの家庭教師をつけられ

英才教育を受けた。

 

 

事故にあってしばらくは記憶障害だったけれど

言葉を忘れてしまうことはなかった。

 

 

両親が多額の資産を残してくれたことと

親戚がきちんと資産の管理をし

僕が回復するまで面倒を見てくれたので

今の僕があるのだ。

感謝しなければいけない。

 

 

院生の彼と別れた後

彼の言葉をゆっくりと反芻していた。

 

 

「頼りがいがある年上の男がいい」

「チャンスはあるよ」

 

彼の社交辞令を真に受けるほど

うぬぼれてはいなかったけれど

胸の中に暖かな灯がともったのは確かだ。

 

 

「彼女は誰とも付き合っていない」

 

心をくすぐられるような淡い期待が芽生えてきた矢先……

 

 

ある日ついに

恐れていた光景を見てしまうことになる。

 

 

 

 

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