「麗華ちゃん。実はね」
いつになく伯母の思いつめた表情を見て
麗華はハッとした。
聞きたくない。
「あっ、もうすぐ開店の時間よね。
私、店に手伝いに行ってくるわ」
ことさら明るい声で言ってその場を離れようとした。
「待って、話があるの」
なおも伯母は切実な感じで訴えてくる。
嫌だ。聞きたくない。
伯母が何を言おうとしているのか
だいたい見当がついている。
最近のメッシュのたび重なる訪問。
メッシュが麗華を見るときの目つき。
ある一つの可能性が頭に思い浮かんで
ずっともやもやしていた。
今、聞いた方がいいのではないだろうか。
先延ばしにしてずっと悩むよりも
この場ではっきりさせた方がいい。
でも……
やっぱり聞きたくない気持ちもある。
麗華は下を向いて立ち尽くしたまま
その場を動けなかった。
「いやよ。そんなの絶対いや」
麗華は玄関から飛び出した。
ちょうど入って来た耀とぶつかって
止めるのを振り切って外に走り出した。
そのまま店に行く気にもなれず
裏道を一人であてどなく歩いた。
ひどいっ。聞きたくなかった。
養女にしたいだなんて。
あの風変りな身寄りのない九鬼の
養女になるなんてまっぴらごめんよ。
おばさんもそんなことを私に言うなんて
ひどすぎるわ。
一方、家に残った伯母と耀は途方に暮れていた。
「麗華の耳に入れたくなくて
今まで私たちでごまかしてきたけれど
『本当に話をしているのか』
と何度もあの男が催促するものだから
形だけでも言ったことにしなければと思って…」
ため息交じりに伯母が話す。
「うん、わかっている」と耀はうなずいた。
「麗華だってそのうちわかるよ」
「もちろん養女に出すつもりなんかないのよ」
「それもわかっているさ。
おじさん、おばさんは絶対そんなことしないって」
「これではっきり断れるわ」
「でも九鬼はまた別の圧力をかけてくるんだろうね」
耀がそう言って二人とも黙りこくった。
九鬼は耀たちが幼い頃から
メッシュや他の部下を伴って
たびたび家の周りに姿を現していたが
いつも歓迎されざる客だった。
まるで林家にまとわりつく黒い影のような存在で
伯父や伯母はひたすら九鬼を恐れていたが
因縁については一度も聞いたことがなかった
他にも耀が不思議に思っていることがあった。
亡くなった両親は大学生の時に知り合って
付き合い始め、卒業してすぐに
結婚したということだが
写真があまり残っていないのだ。
若い二人が、自由な学生時代
デートを重ねれば
たくさん写真を撮っているのではないだろうか。
数少ない両親の写真。
結婚式の写真と
幼い耀、麗華と写った数枚の写真だけだ。
そして母の若いころの顔は、今19才の麗華にそっくり。



