僕の目は覆る船の幻を見る。
僕には泣きわめいていた少年が
ようやく静まるような気がする
僕には帆と帆柱と希望のはためきが
海に向かって進みいるように思われる。
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パイロットの主人公ジャック・ベルニスは
サン=テグジュペリがモデルでしょう。
空への限りない憧れ、別れた恋人への思いが
抒情的で美しい文章でつづられています。
ベルニスにはかつて恋人がいたのですが
彼女は別の男と結婚して一人の子どもをもうけます。
しかしその子が死んだことで彼女は家を飛び出し
ベルニスに駆け落ちを迫りますが
彼は彼女を受け止めることができません。
そして彼女は重い病にかかってしまい
彼もまた…
ベルニスは“永遠の少年”です。
“永遠の少年”というと、いい意味もありますが
悪い意味もあります。
“空の男”は文字どおり足が地に付かないモラトリアム人間。
地上のごたごたや、現実の迷いから
しばらくの間、逃れたいのです。
地上に比べ空は魅力的です。
空に飛び立った時の高揚感、浮揚感。
宇宙の中で一人ぼっちの孤独感
甘美な死への誘惑。
彼は何か一つの生活にあこがれ
ずっとそれを求め続けていたのですが
答えが出ませんでした
海底の真珠に触れはするが、どうしてもそれを
海面へ持ち出しえないインドの潜水夫よ。
君はこれからどこへその宝物を訪ねて行こうとするのか。
詩人でもあった堀口大学の訳は古風ですが
美文だと思います。
すでに二人の訳者が新訳を出していますが
今ではどう捉えられるのでしょうか。
友だち(話者)が「ベルニスよ、君は……」と呼びかける形で
彼の心の内を推しはかり代弁していきます。
彼の分身であり、彼の意識であり〈二人で一人〉の状態です。
ベルニスよ、幾度か僕は君が、その心の中の
説明しがたい思いにじっと耽っているのを見た。
今に及んでも、僕は君の夢想を
解き明かすべき言葉を知らない。
とはいうものの、僕は今思い出す。
君があんなに好きだったニイチェのあの言葉を
「寂しくも幸多かりし暑きわが夏」



